Clemmensenらは、アルギニンが、最新の糖尿病治療薬であるDPP-4阻害剤と同様に、GLP-1を増やして血糖値を下げることを明らかにしました。
(Clemmensen C, Smajilovic S, Smith EP, Woods SC, Bräuner-Osborne H, Seeley RJ, D'Alessio DA, Ryan KK. Oral L-arginine Stimulates GLP-1 Secretion to Improve Glucose Tolerance in Male Mice. Endocrinology. 2013 Nov; 154(11): 3978-83.)。
アルギニンは糖尿病患者の血糖値を下げ糖尿病を改善することが知られていましたが(「アルギニンは糖尿病・糖尿病合併症を予防・改善します!」)、どうしてそのような働きをするかのメカニズムは明らかではありませんでした。
Clemmensenらは、アルギニン(経口投与)は血糖低下ホルモンであるGLP-1を増やすことで血糖値を低下させることを明らかにしました。
最新の糖尿病治療薬であるDPP-4阻害剤は、GLP-1を分解する酵素DPP-4を阻害することでGLP-1を増やし血糖値を低下させますので、アルギニンとDPP-4阻害剤は結果的にGLP-1を増やすという同じメカニズムで血糖値を低下させ糖尿病を改善することになります。
Clemmensenらは、2型糖尿病モデルマウス(雄)(C57BL/6)を用いて試験を行いました。C57BL/6は高脂肪食を食べさせると肥満、高血糖、高インシュリン血症を引き起こし、ブドウ糖を負荷すると耐糖能異常(耐糖能異常とは、ブドウ糖(グルコース)に対して生体が示す代謝能力が障害を受けている状態です。糖尿病は耐糖能異常が引き起こす代表的な疾患です)を示すため、ヒトの2型糖尿病のモデルとして広く使われています。
通常食を食べさせて肥満していないマウスと、高脂肪食を食べさせて肥満したマウスを用いてアルギニンの効果を検討しました。
マウスには生理食塩水またはアルギニン(1g/kg体重)を経口投与し、その後ブドウ糖負荷試験を行いました。その結果、肥満していないマウスおよび肥満マウスともに血糖値は改善され(耐糖能異常の改善)、血糖値は生理食塩水を投与された場合に比べ両マウスともアルギニン投与によって約30%低下しました(肥満していないマウスでブドウ糖負荷後15分での低下率。肥満マウスでブドウ糖負荷後60分での低下率)。
次に、アルギニンが血糖低下ホルモンであるGLP-1にどういう影響があるか検討されました。その結果、肥満していないマウスにおいて、アルギニンの投与はGLP-1の血中濃度を明らかに増加させました(アルギニン投与後15分で2.3倍の増加)。また、肥満したマウスでも同様に明らかに増加しました(アルギニン投与後15分で2.8倍の増加。生理食塩水の投与ではほとんど増加せず)。アルギニン投与後のGLP-1の量はブドウ糖負荷によってさらに増加しました(ブドウ糖負荷後15分で5倍の増加)。
次にインシュリンの分泌量に対するアルギニンの効果について検討されました。肥満したマウスにおいて、血中インシュリンはアルギニンの投与によって明らかに増加しました(アルギニン投与後15分で1.8倍の増加)。インシュリン量はブドウ糖の負荷によってさらに増加しました(ブドウ糖負荷後15分で2.3倍の増加)。
アルギニンによるインシュリン増加作用と血糖低下作用がGLP-1を介するかどうかの検討がGLP-1のレセプター(受容体)を持たないマウス(Glp1r
KOマウス)を用いて検討されました(GLP-1の作用はそのレセプターを介して行われますので、そのレセプターを持たないマウスではGLP-1の作用は生じないことになります)。その結果、Glp1r
KOマウスでは、アルギニンの投与によって血中インスリンに影響しないことが明らかになりました。また、Glp1r KOマウスにおいて、ブドウ糖負荷後の血糖上昇に対しアルギニンは影響しないことが示されました。これらのことは、アルギニン(経口投与)のインシュリン増加作用と血糖低下作用はGLP-1のレセプターを介して行われていることを示しています。つまり、アルギニン(経口投与)は、GLP-1を増加させてインシュリン分泌を増加させ、血糖値を改善することが明らかとなりました。
以上の結果から、アルギニン(経口投与)は、DPP-4阻害剤と同様に、体内のGLP-1を増やして血糖低下作用を示す、新しい糖尿病治療薬として期待されます。さらに、アルギニンは、糖尿病合併症にも効果を示す可能性があるために(「アルギニンは糖尿病・糖尿病合併症を予防・改善します!」を参照下さい)、またDPP-4阻害剤よりもより安全と考えられるために、DPP-4阻害剤より優れた糖尿病治療薬になる可能性があります。
【解説】
糖尿病とは、すい臓からのインシュリンの分泌が悪くなったり、末梢組織(筋肉、脂肪組織、肝臓など)でのインシュリンの働きが悪くなったりして、血糖値が高くなる病気です〔インシュリンは、すい臓のベータ細胞(β細胞)というところから分泌される、糖分(ブドウ糖)を体に取り込ませて利用させるために働くホルモンです〕(糖尿病について詳しくは「アルギニンは糖尿病・糖尿病合併症を予防・改善します!」を参照下さい)。
そのため、(2型)糖尿病の治療薬としては、インシュリンの分泌を促進して血糖値を低下させるものと、末梢組織でのインシュリンの働きを高めて血糖値を低下させるもの、糖の吸収を抑えて血糖値を下げるものなどがあります。しかしながらこれまでのインシュリン分泌促進剤は、インシュリンの分泌を高めるとそれとともに重篤な副作用である低血糖が生じるという重大な問題がありました。それを解決するものとして注目されたのが血糖低下ホルモンであるインクレチンです。
インクレチンは、食事摂取に反応して消化管の上皮細胞から分泌されるペプチドホルモンであり、血糖値に依存してインシュリン分泌を増強させ、肝臓や末梢の筋肉、脂肪組織への糖の取り込みを促進させます。代表的なインクレチンホルモンとしてGLP-1(グルカゴン様ペプチド1)およびGIP(Glucose-dependent
insulinotorpic polypeptide)が知られており、これらのホルモンは血糖値に依存してインシュリンの生合成および分泌を促進することが知られています。これらの働きのためにインクレチンは低血糖を起こしにくい血糖低下ホルモンとして非常に注目されました。実際、糖尿病患者を対象とした臨床試験で、GLP-1を静脈内持続投与した結果、インシュリンの分泌量が増加し、血中グルコース濃度が低下するとともに、血糖コントロールの指標であるHbA1cが低下することが明らかになりました。しかしながら、GLP-1およびGIPはともにDPP-4という酵素によって迅速に代謝され不活化されます。このDPP-4を阻害することによりインクレチンホルモンであるGLP-1およびGIPの不活化を阻害し、その生物活性を持続させるために開発されたのがDPP-4阻害剤です(Physiol.
Rev., 87: 1409-1439, 2007)。
では、DPP-4を阻害したときに、DPP-4を阻害していないときに比べ活性GLP-1の濃度はどれ位増加するのでしょうか。またその時にインシュリンの増加量や血糖低下の程度はどのくらいでしょうか。これは、DPP-4を持たないマウス、あるいはDPP-4阻害剤を用いて検討されました(PNAS,
97: 6874-6879, 2000)。
DPP-4を持たないマウス(C57BL/6 CD26-/-マウス)では、DPP-4を持っているマウス(C57BL/6 wild-typeマウス)に比べ、ブドウ糖負荷後の血糖値が明らかに低下しました(ブドウ糖負荷後30分での低下率27%)。この時インシュリンとGLP-1に対する影響も検討されました。その結果インシュリン並びにGLP-1は、DPP-4を持っているマウスに比べ、DPP-4を持たないマウスにおいて増加しました(ブドウ糖負荷後15分におけるインシュリンの増加率1.8倍、GLP-1の増加率2.5倍)。
次にDPP-4阻害剤の効果が検討されました。DPP-4を持っているマウス(C57BL/6 wild-typeマウス)にDPP-4阻害剤(valine-pyrrolidide)が投与された後ブドウ糖が負荷されました。その結果、ブドウ糖負荷後30分の血糖値はDPP-4阻害剤を投与されないマウスに比べ、投与されたマウスでは32%低下しました。
以上の結果から、マウスを用いての実験からは、アルギニンとDPP-4阻害剤の血糖降下作用はほぼ同等と考えられました。
では、DPP-4阻害剤の糖尿病患者における臨床効果はどうでしょうか。DPP-4阻害剤として最初に市販されたシタグリプチン(日本での商品名ジャヌビア(MSD)、グラクティブ(小野薬品))の臨床試験結果が報告されています(Int.
J.Clin.Pract., 65: 397-407, 2011)。それによりますと、シタグリプチン(100mg/日)を2型糖尿病患者に52週間にわたって経口投与した結果、投与4週間後の空腹時血糖値の低下率は、投与前に比べ11%でした。また、投与52週間後の空腹時血糖値の低下率は投与前に比べ約5%でした。
現在日本では、DPP-4阻害剤として、シタグリプチン(日本での商品名ジャヌビア(MSD)、グラクティブ(小野薬品))、ビルダグリプチン(日本での商品名エクア(ノバルティスファーマ))、アログリプチン(日本での商品名ネシーナ(武田薬品工業))、リナグリプチン(日本での商品名トラゼンタ(日本ベーリンガーインゲルハイム))、テネリグリプチン(日本での商品名テネリア(田辺三菱製薬))、アナグリプチン(日本での商品名スイニー(三和化学研究所))、オキサグリプチン(日本での商品名オングリザ(協和発酵キリン))などが市販されていますが、その血糖低下作用については薬剤間の差はほとんどないものと考えられます(各薬剤の添付文書を参照下さい)。副作用については、これらの薬剤は全て化学合成によって作られているために、体にとっては異物であり、当然ながら重篤なものも含めて副作用は避けることはできませんので、安心して使うことはできず十分注意して使用する必要があります(副作用についても各薬剤の添付文書を参照下さい)。
一方、アルギニンの臨床効果はどうでしょうか。境界型(IGT、耐糖能異常)の患者(メタボリックシンドロームを併発)に18ヶ月間経口投与し、アルギニンが高血糖(糖尿病や境界型の)の原因であるすい臓のベータ細胞の働きの低下や末梢組織でのインシュリンの働きの低下の両方を改善し、高血糖を正常化させ、糖尿病のリスクを低下させるという試験はありますが(試験期間中のアルギニンの副作用はほとんど認められませんでしたので、アルギニンは非常に安全性が高く長期間安心して摂取できる成分と言えます)、ほとんどの臨床試験の投与期間は1ヶ月程度です。いくつかの文献によりますと、2型糖尿病の患者に10~21日間アルギニンを経口投与したところ、空腹時血糖値は23~35%低下し、血糖値はほぼ正常化しました(「アルギニンは糖尿病・糖尿病合併症を予防・改善します!」を参照下さい)。
以上の結果から、アルギニンがDPP-4阻害剤より、血糖低下作用においてより優れているということは断定できませんが、少なくともアルギニンの効果はDPP-4阻害剤と同等以上である可能性があります。また、アルギニンには、DPP-4阻害剤が持っていない、糖尿病合併症を直接予防・改善する効果(「アルギニンは糖尿病・糖尿病合併症を予防・改善します!」を参照下さい)や、肥満を改善する効果(「絶対やせる!ダイエットの決め手はこれだ!(ダイエットの革命『アルギニンダイエット』について」を参照下さい)などがありますので、より望ましい糖尿病治療薬になる可能性があります。さらに特に重要なのは、アルギニンが生体成分で高い安全性を持っているという点において、化学合成され副作用の心配があるDPP-4阻害剤と決定的に違う点です。
【私が糖尿病だったらどういう治療法を選択するでしょうか】
これらのアルギニンの働きから、もし私が糖尿病になったら(あるいは糖尿病になるリスクがあったら(境界型の場合など))、私はアルギニンをどう使うでしょうか。まず、私が境界型の場合を考えて見ます。境界型とは、血糖値が糖尿病より低いが正常より高い場合を言います。この場合、糖尿病になるのを防ぐために食事療法や運動療法を行いますが、2年くらいでほぼ半数が糖尿病に移行するといわれています。この時薬はおすすめできません。その理由はこのような軽い状態で(まだ糖尿病になっていない状態で)使える、副作用の心配が無い安全な薬がないからです。
アルギニンの信頼のおけると考えられる臨床試験データによりますと、境界型の人にアルギニンを18ヶ月間摂取させたところ、糖尿病への移行率はアルギニンを摂取させない場合に比べ約半分に低下したということです。また半分近くの人が血糖値が正常に戻ったということです。副作用に関しては、試験期間中のアルギニンの副作用はほとんど認められなかったということです(「アルギニンは糖尿病・糖尿病合併症を予防・改善します!」を参照下さい)。
境界型の段階でしっかり治療し、糖尿病への移行をいかに防ぐかは極めて重要なことです。というのは、一旦糖尿病になるともう正常に戻るのはかなり難しいからです。どんどん進行していき(いくら治療しても糖尿病の進行を完全に止める薬や治療法は現在は無いからです)、最後には糖尿病合併症(腎不全・透析、失明、手足の潰瘍・壊疽による切断など)で苦しみ死亡(心筋梗塞、脳梗塞、腎症などで)することになります(糖尿病患者の平均寿命は67~68歳で、日本人の平均寿命の81歳よりかなり短命です)。
このように、アルギニンは極めて安全性が高く、境界型からの糖尿病移行率を低下させ、血糖値を正常化させる効果が明らかに認められるために、もし私が境界型でしたらアルギニンを絶対摂取します。
次に、不幸にも私が糖尿病なったらどういう治療法を選択するでしょうか。アルギニンの効果が十分なときはアルギニンのみを摂取します。その理由は他の薬剤に比べ低血糖のリスクがないのを含め安全性が格段に高いからです。糖尿病が進行してアルギニンのみでは血糖低下効果が十分でないときは他の薬剤を併用します。他の薬剤との併用効果も期待できるからです。また、アルギニンには糖尿病合併症への直接効果がありますのでそれを期待して最後まで使い続けます。
以上の私の糖尿病治療法が少しでも皆様の参考になれば幸です。
●アルギニンを摂取する場合の注意点
これについては『アルギニンの安全で効果的な飲み方』、および『アルギニンサプリメントの正しい選び方』をご覧ください。
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