アルギニンは、糖尿病へ高率に移行する境界型(耐糖能異常、IGT)の高血糖を正常に戻し、糖尿病や動脈硬化のリスクを低下させることが、長期摂取(18ヶ月)によって明らかになりました。そして、その効果は摂取を中止したあとの12ヶ月の観察期間中も維持されていました。アルギニンによる問題となる副作用はほとんどありませんでした。

文献:L. D. Monti, E. Setola, P. C. G. Lucotti, M. M. Marrocco-Trischitta, M. Comola, E. Galluccio, A. Poggi, S. Mammi, A. L. Catapano, G. Comi, R. Chiesa, E. Bosi, P. M. Piatti. Effect of a long-term oral L-arginine supplementation on glucose metabolism: a randomized, double-blind, placebo-controlled trial. Diabetes Obes Metab, 14, 893(2012)〕


【試験の背景および目的】
  いまや糖尿病は、患者数の異常な増加と、その合併症の悲惨さから、日本のみならず世界的にも大きな問題となっており、その治療法や予防法の開発は焦眉の急となっています。糖尿病合併症には重篤なものが多く、その代表的なものとして腎症、網膜症、神経症などの細小血管症や、動脈硬化症、脳血管障害(脳出血、脳梗塞など)、虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞など)、末梢循環障害(閉塞性動脈硬化症、壊疽など)などの大血管症があり、ひどくなってくると命に関わります。糖尿病合併症は、血糖値が高い(高血糖の)状態が続くことで起こりますので、血糖値を正常状態に戻すことが出来れば合併症は起こりません。そのため、高血糖を正常化する試みが種々なされましたが、糖尿病になってから血糖値を正常に戻すこと(糖尿病を治し、薬の力を借りずに血糖値が正常に維持されること)は極めて困難です。
  一方、糖尿病になる一歩手前の状態(境界型)ではまだ正常に戻る(糖尿病にならないですむ)ことが可能であることが示されてきつつあり、そのための方法がいくつか提案されてきています。例えば、生活習慣の改善(運動療法や食事療法など)を行うことで境界型の一部は正常に戻ることが示されていますが、その効果は十分ではありません。そのため糖尿病の治療に使われている医薬品をその目的のために使えないか検討が進められ、最近一部の薬剤が使用されるようになって来ましたが、使用者の約半数に副作用が見られ、その中には重篤な副作用も見られています。しかしながら、境界型のような軽症(軽症糖尿病)の患者に副作用の心配のある医薬品を使うことが本当に良いのか疑問に感じられます。
  境界型の患者を治療する目的は、糖尿病へ移行するのを防ぐというだけではなく、境界型においても糖尿病の場合と同様に動脈硬化などの大血管症が起こりますので、それを予防するためにも積極的に治療する必要があります。
  糖尿病や境界型の高血糖の原因は、インシュリンを分泌するすい臓のβ細胞が何らかの原因で働きが弱くなりインシュリンの分泌量が少なくなるのと、末梢組織でのインシュリンの働きが悪くなることで、血液中のブドウ糖が組織に取り込まれにくくなり、血液中にブドウ糖が長くとどまることによるものです。従って、β細胞の働きを正常に戻し、インシュリンの働きを正常に戻すことが出来れば糖尿病や境界型の高血糖は正常化することになります。
  アルギニンはこれまでの多くの研究で、すい臓からのインシュリンの分泌を促進し、インシュリンの働きを高めることが示されてきていますので、境界型の高血糖を正常化することが期待できます(場合によっては糖尿病の一部でも)。また、通常の使用において安全性の面でも特に問題となるものはありません。これらのことから、アルギニンは安全性の高い高血糖正常化成分として強く期待されます。
 本研究では、先ず境界型(IGT、耐糖能異常)の患者においてアルギニンが高血糖を正常化するかどうか検討されました。
  

【方法】
  
境界型(IGT、耐糖能異常)※1の患者(メタボリックシンドロームを併発)144人を2群にわけ、一方には生活習慣の改善を、他方には生活習慣の改善に加えアルギニン(1日6.4gを1日2回に分け)を経口摂取させました。試験はランダム化二重盲検プラセボ対照試験(医薬品やサプリメントなどの効果を調べるための最も信頼性の高い試験)で行われました。アルギニンの摂取期間は18ヶ月で、その後摂取を止めた後12ヶ月間経過観察を行いました。

※1境界型:糖尿病型にも正常型にも属さない血糖値を示す群のことを言います。境界型は糖尿病に準ずる状態であり、数年の内にその多くが糖尿病に移行します。また、動脈硬化や動脈硬化性疾患(心筋梗塞、脳梗塞など)による死亡を糖尿病と同様に促進します。そのため糖尿病になるのを予防するためにも、動脈硬化を防ぐためにも境界型を治療し、正常に戻すことが積極的に行われています。なお、糖尿病になってしまうといくら治療しても現在正常に戻すことは極めて困難ですので、正常に戻すことが可能な境界型のところで積極的に治療することが極めて重要になってきます。

血糖値よる糖尿病の判定基準
:空腹時血糖値が110mg/dl未満で75gOGTT(75g経口ブドウ糖負荷試験)2時間後の血糖値が140mg/dl未満の場合正常型、空腹時血糖値が126mg/dl以上または75gOGTT2時間後の血糖値が200mg/dl以上の場合糖尿病型、正常型にも糖尿病型にも属さない場合は境界型と判定します。境界型にはIFG(空腹時血糖異常)とIGT(耐糖能異常)とがあります。IFGは空腹時血糖値が110~125mg/dlで75gOGTT2時間後の血糖値が140mg/dl未満の場合をいいます。IGTは空腹時血糖値が126mg/dl未満で75gOGTT2時間後の血糖値が140~199mg/dlの場合をいいます(WHOの糖尿病診断基準)。


【結果】
  生活習慣の改善に加えアルギニンを1日6.4g18ヶ月間経口摂取した境界型(IGT、耐糖能異常)の患者の内、血糖値が正常の戻った人は42.4%でした。一方、生活習慣の改善のみの患者では18ヵ月後に血糖値が正常化した人は22.1%でした。このように、アルギニンは明らかに血糖値の正常化率を高め(統計的に有意に)、アルギニンを摂取しない場合に比べ約2倍正常化率が高まりました。また、その正常化率はアルギニンの摂取期間が長くなるほど高くなり、アルギニン摂取後6ヶ月で約1.5割、12ヶ月で約3割、18ヶ月で約4割の高血糖(境界型)の患者が血糖値が正常化しました。
  観察期間(12ヶ月)終了後の30ヵ月後では、アルギニンを摂取していたグループの血糖値正常化率は45.5%でアルギニンを摂取しないにもかかわらず高血糖が正常化する人はさらに増えました。一方、アルギニンを摂取しなかったグループの観察期間終了後(30ヵ月後)の血糖値正常化率は20.6%で観察期間中の正常化率は減少しました。
  なお、観察期間終了後(30ヵ月後)の境界型から糖尿病への移行率は、アルギニン摂取グループでは27.2%でしたが、アルギニンを摂取しないグループでは47.1%で、アルギニングループでは約半分でした。。すなわち、アルギニンによって血糖値の正常化のみならず、糖尿病移行率も低下しました。
  試験期間中のアルギニンの副作用はほとんど認められず、アルギニンを摂取しないグループと同様でした。

  アルギニンが何故血糖値の正常化率を高めたり、糖尿病移行率を低下させるかについて検討されました。試験開始18ヵ月後において、アルギニン摂取グループ(生活習慣の改善に加えアルギニンを摂取)ではアルギニンを摂取しないグループ(生活習慣の改善のみ)に比べ(試験開始前の状態との差において)、体脂肪や腹囲がより多く減少し、OGTT後30分の血糖値がより低下し、OGTT後30分のインシュリン値がより増加し、OGTT後120分のインシュリン値がより低下しました。これらの結果に他の指標も加え判断しますと、アルギニンはβ細胞の働きを高めてインシュリンの分泌を増やし、末梢でのインシュリンの働きを高めて血糖値を正常化させるものと考えられました。また、アルギニンによって高められたインシュリンの分泌とインシュリンの働きは、アルギニンを摂取しない観察期間中も維持されていました。この結果アルギニングループでは血糖値の正常化率や糖尿病への移行阻止率が観察期間中も増え続けたものと考えられました。


  このように、アルギニンは、高血糖(糖尿病や境界型の)の原因であるすい臓のβ細胞の働きの低下や末梢組織でのインシュリンの働きの低下の両方を改善し、高血糖を正常化させ、糖尿病や動脈硬化のリスクを低下させました。


【解説】
  糖尿病は、患者数の異常な増加と、その合併症の悲惨さから、日本のみならず世界的にも大きな問題となっており、その治療法や予防法の開発は焦眉の急となっています(糖尿病について詳しくは「アルギニンは糖尿病・糖尿病合併症を予防・改善します!」を参照下さい)。しかしながら、現在のところ数多くの糖尿病の薬が開発されてきているにもかかわらず血糖値を正常化し糖尿病を根本的に治す薬はまだありません。そのため、例え見かけ上血糖値が正常値近くにコントロールされていても糖尿病は進行し続けます。一方、糖尿病の前段階の境界型の場合、生活習慣の改善などによってその一部は正常まで戻りうることが最近の臨床試験等で明らかにされてきており、糖尿病にならないための対策として境界型から正常化する方法が種々検討されてきています。例えば、生活習慣の改善だけでは正常化率が不十分であるため、さらに上乗せ効果を期待してα-グルコシダーゼ阻害薬のベイスン(すでに糖尿病治療薬として使われています。武田薬品工業の製品)が境界型の患者で検討されました。その結果、生活習慣の改善に加えベイスンを投与したグループでは(平均約1年間投与)、生活習慣の改善のみの群に比べ、境界型から糖尿病への移行率が約半分に低下しました。また、血糖正常化率もベイスン群でより高率でした。しかしながら、ベイスン群では高率に副作用が生じました(鼓腸、腹部膨満、下痢などが12~17%の患者にみられました)。また、劇症肝炎などの重篤な副作用が生じる場合もあります。そのため、境界型のような軽症の場合にベイスンのような副作用の危険のある医薬品を使うということが本当に良いのか疑問に感じられます。

  糖尿病や境界型の高血糖の原因は、インシュリンを分泌するすい臓のβ細胞が何らかの原因で働きが弱くなりインシュリンの分泌量が少なくなるのと、末梢組織でのインシュリンの働きが悪くなることで、血液中のブドウ糖が組織に取り込まれにくくなり、血液中にブドウ糖が長くとどまることによるものです。従って、β細胞の働きを正常に戻し、インシュリンの働きを正常に戻すことが出来れば糖尿病や境界型の高血糖は正常化することになります。
  アルギニンはこれまでの多くの研究で、すい臓からのインシュリンの分泌を促進し、インシュリンの働きを高めることが示されてきていますので、境界型(場合によっては糖尿病の一部でも)の高血糖を正常化することが期待できます。また、通常の使用において安全性の面でも特に問題となるものはありません。これらのことから、アルギニンは安全性の高い高血糖正常化成分として強く期待されます。

  本文献の臨床試験は最も信頼できる方法(ランダム化二重盲検プラセボ対照試験)と多数の患者(144人)を用いて行われた信頼できるものです。
  本試験は境界型(IGT、耐糖能異常)の患者の高血糖がアルギニンの摂取で正常化するかどうか検討されました。また、境界型から糖尿病への移行が抑えられるかも検討されました。その結果、アルギニンを18ヶ月間経口摂取した時、血糖値が正常の戻った人の割合はアルギニンを摂取しない場合に比べ約2倍に増加しました。また、その正常化率はアルギニンの摂取期間とともに増加しました
  アルギニンを摂取していない観察期間(12ヶ月)を含めた30ヵ月後では、アルギニングループの血糖値正常化率はアルギニンを摂取しないにもかかわらずさらに増えました。一方、アルギニンを摂取しなかったグループの観察期間終了後(30ヵ月後)の血糖値正常化率は減少しました。
  境界型から糖尿病への移行率は、観察期間終了後(30ヵ月後)において、アルギニン摂取グループではアルギニンを摂取しないグループに比べ約半分でした。すなわち、アルギニンによって血糖値の正常化のみならず、糖尿病移行率も低下しました。
  試験期間中のアルギニンの副作用はほとんど認められず、アルギニンを摂取しないグループと同様でした。
  アルギニンが何故血糖値の正常化率を高めたり、糖尿病移行率を低下させるかについて検討された結果、アルギニンはβ細胞の働きを高めてインシュリンの分泌を増やし、末梢でのインシュリンの働きを高めて血糖値を正常化させるものと考えられました。また、アルギニンによって高められたインシュリンの分泌とインシュリンの働きが、アルギニンを摂取しない観察期間中も維持されていたことにより、血糖値の正常化率や糖尿病への移行阻止率が観察期間中も増え続けたものと考えられました。

  このように、アルギニンは高血糖の根本原因であるβ細胞の働きの低下によるインシュリン分泌の低下と、インシュリンの働きの低下の両方を改善することにより高血糖を改善し正常化する望ましい成分と考えられます。加えて、安全性面での心配もほとんどないことから、境界型のような軽症の場合も安心して使用できるものと考えられます。

  アルギニンが糖尿病の高血糖も正常化するかどうかについては、多数の患者で長期間(数年以上)摂取させる試験で検討する必要がありますが、可能性はあると思われます。

  なお、アルギニンは動脈硬化を直接防ぐ働きがありますので(詳しくは「アルギニンは動脈硬化および心血管病を予防・改善します!」を参照下さい)、高血糖による動脈硬化の防止については、血糖の正常化と直接効果の両面から効果が期待できます。


●アルギニンを摂取する場合の注意点
  これについては『アルギニンの安全で効果的な飲み方』、および『アルギニンサプリメントの正しい選び方』をご覧ください。









【お問合せ先】
本ページおよびアルギニンに関するお問い合わせは本ページ責任者古賀までお願いします(Eメール:kogahrs555@nifty.com


上記以外のアルギニンの働きについてお知りになりたい方は
アルギニンで若返る!』をご覧ください。