アルギニンは、動脈硬化で硬くなった血管の弾力性を高め(血管を柔らかくし)、動脈硬化が原因の高血圧を根本から改善することが示されました。中高年の高血圧の主な原因は動脈硬化ですので、中高年で発症する高血圧をアルギニンは根本から改善することが期待できます。
H. Guttmantらは、心血管病(動脈硬化が主な原因である心筋梗塞、脳梗塞などの循環系の病気)の危険因子(リスクファクター)を多くもっている患者(動脈硬化が進んでいると考えられます)において、アルギニンが血管の弾力性を高め、高血圧を改善することを示しました(文献:Hila Guttman, Reuven Zimlichman, Mona Boaz, Zipora Matas, Marina
Shargorodsky. Effect of Long-Term L-Arginine Supplementation on Arterial
Compliance and Metabolic Parameters in Patients with Multiple Cardiovascular
risk Factors: Randomized, Placebo-Controlled Study. J Cardiovasc Pharmacol.
2010 Jun 7.)。
【試験の背景】
中高年の人の高血圧の主な原因は動脈硬化です。そのため、動脈硬化を改善すれば中高年の高血圧の大部分は改善され、高血圧の薬もほとんど必要なくなるものと考えられます。ところが、これまで、中高年の人の高血圧の治療に用いられてきた薬は、動脈硬化を改善してその原因から高血圧を改善するものではなく、対症療法的に血圧を下げるものでした(その理由はこれまで動脈硬化を改善して高血圧を改善する薬がなかったからです)。そのため、血圧を下げる薬を飲むことで見かけ上血圧は下がっていても、動脈硬化は進んでいくため、それにつれて高血圧も次第に悪化していき、それに対応するため(高くなっていく血圧を下げるため)薬の量が増えたり、薬の種類が増えていくことになります。また、一生薬(対症療法的な高血圧の薬)を飲み続けなければならないことになります。
これらのことから、特に中高年者の高血圧をその根本から改善する、動脈硬化を改善して高血圧を改善する薬(や成分)が強く求められてきました。
アルギニンが動脈硬化を予防・改善するという多くのデータ(医学文献)があります(アルギニンの動脈硬化抑制作用については「アルギニンは動脈硬化および心血管病を予防・改善します!」をご覧下さい)。一方、アルギニンが高血圧を予防・改善するというデータ(医学文献)もあります(アルギニンの高血圧予防改善作用については「アルギニンは高血圧を予防・改善します!」をご覧下さい)。
以上のことから、アルギニンの長期摂取が動脈硬化を改善し(血管の弾力性を高めて)、その結果高血圧を改善しうるかどうか大変興味があります。
本臨床試験では、心血管病の危険因子を複数持った中高年の人(動脈硬化がかなり進んでいると考えられます)において、アルギニンの長期間(6ヶ月)の摂取が動脈の弾力性(動脈硬化の指標の一つ)を高めて動脈硬化を改善し、高血圧を改善しうるかについて検討されました。
【結果】
少なくとも二つ以上の心血管病の危険因子を持つ患者(90人)が試験に参加しました。これらの患者を2グループにわけ、一方のグループには1日6gのアルギニンを毎日経口的に摂取させました(アルギニングループ)。他方のグループにはプラセボを摂取させました(プラセボグループ)。試験前に継続的に摂取していた薬はそのまま服用を継続させました。試験は二重盲検法※1によって行われました。動脈硬化を測定する方法として種々の方法がありますが、本試験では動脈の弾力性を測定しました。動脈の弾力性はPulse Wave
Contour Analysisを用いて評価されました。
最初の90人の患者のうち、6ヶ月の試験を終了したのは77人でした(アルギニングループ43人。プラセボグループ34人)。試験を完了した2グループの間で、男女比、年齢、BMI、危険因子(糖尿病、高血圧、脂質異常など)の種類や罹患率、服用薬の種類や服用率、生化学的パラメータなどに統計学的な差はありませんでした。アルギニングループの平均年齢は62歳で、プラセボグループの平均年齢は60歳でした。薬の服用率は糖尿病薬は約7割、高脂血症薬は約7割、高血圧薬は約8割程度でした(なお、投与が継続された高血圧薬は、利尿剤、β遮断薬、カルシウム拮抗薬、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、アンジオテンシンII受容体拮抗薬でした)。試験を終了できなかった患者の理由は個人的なもので、副作用によるものではありませんでした。試験期間中、アルギニンによると考えられる副作用はありませんでした。
アルギニングループ(1日6gのアルギニンを毎日経口的に摂取)の6ヵ月後の変化は、動脈(大きい)の弾性指数(血管の弾力性を表す指数。ml/mmHgX10)(平均値)が12.7に上昇し(試験前は10.6)、動脈の弾力性(柔らかさ)が高まっていました※2。一方、プラセボグループでは弾性指数(平均値)は悪化していました(試験前11.6が試験後8.0に悪化)。すなわち、プラセボグループでは動脈硬化を防ぐための種々の薬(糖尿病薬、高脂血症薬、高血圧薬など)を服用していたにもかかわらず、動脈の弾力性は低下し動脈硬化が進行していることが示されましたが、アルギニングループでは、弾力性は高まり、動脈硬化の進行を止めるどころか、改善していることが示されました。アルギニンの動脈弾力性改善作用を経時的に見てみますと、アルギニン摂取後3ヶ月目から明らかに弾力性が高まり、その後改善し続け、6ヶ月目でもそれが頭打ちになることはありませんでした。。このことから、アルギニンをさらに飲み続けることで動脈の弾力性(動脈硬化)はより改善する可能性が示されました。
アルギニングループでは、血圧の低下が見られました。アルギニングループの収縮期血圧(平均値)は、試験前には144mmHgでしたが、6ヵ月後には133mmHgに明らかに低下しました。一方、プラセボグループでは血圧は上昇傾向でした(試験前143mmHg、試験後147mmHg)。アルギニングループでの収縮期血圧の低下はアルギニン摂取後5ヶ月目から見られました。※3
拡張期血圧に関しましては、アルギニンの6ヶ月摂取後においても変化は見られませんでした(試験前77mmHg。試験後75mmHg)。これは、試験前においてすでに拡張期血圧は正常血圧(85mmHg未満)の範囲内にあり、これ以上低下しなかったものと考えられました(このことからアルギニンは低血圧の心配がないと考えられます)。※3
アルギニンの血圧低下作用は、動脈の弾力性改善作用が見られた時期よりも後で見られたことから、動脈の弾力性の改善が血圧の改善(低下)を引き起こしたものと考えられました。
このように、アルギニンは、長期摂取(6ヶ月間)によって、種々の薬による治療では改善するどころか悪化した、動脈(大きい)の弾力性を高めて動脈硬化を改善しました。また、従来の高血圧薬によってもこれ以上低下しなかった高血圧を、動脈の弾力性を高めることで改善し、血圧を正常値近くまで低下させました。
※1二重盲検法:医薬品やある成分の効果を正しく判定するための統計的手法です。プラセボ(効果が無い偽薬)によるプラセボ効果(思い込み効果)を除くために、医者にも患者にもどちらが効果のある「披検薬」で、どちらが効果の無い「プラセボ」であるか、分からないようにして、治験(臨床試験)を進める方法です。医薬品やある成分をプラセボ(効果が無い偽薬)と同時に投与してその効果を判定します。医薬品やある成分の効果が、プラセボの効果よりも統計的に明らかに(有意に)高ければ医薬品やある成分は正しく効果があるということになります。
※2弾性指数(Pulse Wave Contour Analysis):動脈(大きい)の弾性指数(血管の弾力性を表す指数)に関しては、本試験の患者(平均年齢62歳)とほぼ同年齢(平均年齢61歳)の肥満していない(肥満は動脈を硬くします)ほぼ健康体の人(33人)の平均値は16.2(ml/mmHgX10)と報告されています(Vascular
Medicine 2007; 12: 183-188)。
※3血圧値の分類
成人における血圧値の分類 |
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分類 |
収縮期血圧(mmHg) |
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拡張期血圧(mmHg) |
至適血圧 |
120未満 |
かつ |
80未満 |
正常血圧 |
130未満 |
かつ |
85未満 |
正常高値血圧 |
130〜139 |
または |
85〜89 |
I度高血圧 |
140〜159 |
または |
90〜99 |
II度高血圧 |
160〜179 |
または |
100〜109 |
III度高血圧 |
180以上 |
または |
110以上 |
(孤立性)収縮期高血圧 |
140以上 |
かつ |
90未満 |
※病院・診療所で測定した血圧値での診断基準です。
※日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会編「高血圧治療ガイドライン2009」より
【解説】
私たちの体には血圧を調節する仕組みがあり、特に、神経系、内分泌系、腎臓などは大きな役割を果たしています。高血圧はこれらの血圧調節機構になんらかの異常が起こることが一因と考えられています。特に若年性の高血圧はこれらの要因が大きいと考えられます。そのため、これらの調節機構に働く様々の薬が開発され、高血圧薬として使われています。
一方、血圧には、血管の弾力性が大きく影響してきますので、弾力性の低下(血管が硬くなる)は高血圧を引き起こすことになります。特に、中高年の人の高血圧は、動脈硬化による血管(動脈)の弾力性の低下が主な原因となります。しかし、これまでの高血圧薬は、動脈硬化を改善して高血圧を改善するものがなく、そのため動脈硬化が原因の中高年の人の高血圧にも、神経系、内分泌系、腎臓などに働くものを使っており(動脈硬化が原因の中高年の高血圧にもこれらの薬は血圧を下げますが動脈硬化はほとんど改善しません)、一時的にある程度血圧は下がっても、動脈硬化は進み続け、高血圧も次第に悪化していきます。そのため、動脈硬化を改善して(動脈の弾力性を高めて)高血圧を改善する薬が強く望まれていました。
では動脈が硬くなるとどうして血圧は高くなるのでしょうか?動脈は単に硬い管ではなくて柔らかくて弾力性があります。収縮期(左心室が収縮して血液が強い圧力で送り出されるとき)に送り出された血液によって動脈には強い圧力がかかりますが、動脈はその弾力性で伸張(ふくらむ)することによって血圧が異常に高くなるのを防いでいます。また、拡張期(左心室が拡張して血液を送り出すための準備をしているとき)には心臓からの圧力はほとんどありませんが、動脈はその弾力性で縮み血圧が低くなりすぎるのを防いでいます。このように、動脈はその弾力性によって血圧がある範囲内にあるように調節する働きがあります。ところが、動脈硬化で動脈の弾力性が低くなったり失われたりすると、動脈は収縮期の強い圧力を和らげることができず、収縮期血圧はどんどん高くなっていきます。一方、拡張期には血圧を保持する働きが弱くなり、血圧は低くなりますが、動脈硬化が進み内腔(血管の中の空間)が狭くなってくると血液が流れにくくなり拡張期血圧も高くなってきます。
動脈硬化は加齢(年を取ること)によって進んでいきますが、高血圧も年齢が高くなるとともに増えていきます。動脈硬化は30代では4分の1に、40代ではほぼ半数あまりに、60代以上ではほとんどの人に動脈硬化がみられるといわれていますが、一方、高血圧症有病者は、30代で10%、40代で22%、50代で47%、60代で61%、70代で72%に上ると報告されています(「平成18年国民健康・栄養調査」厚生労働省)。実際、中高年の人の高血圧の主な原因は動脈硬化です。同年代で動脈硬化よりも高血圧の有病率が低い理由は、動脈硬化がある程度進んでから血圧が高くなってくるものと考えられます。つまり、動脈硬化になると血管が硬くなり、また、内腔が狭くなってきますがこれがある程度進んで初めて血圧の調節がうまくいかなくなってくると考えられます。逆に言いますと、動脈硬化を改善して、動脈の弾力性を高める薬(や成分)が見出されたとすれば、動脈硬化が完全に治らなくても高血圧は正常値まで改善される可能性があるといえます。
現在様々な高血圧の治療薬が使われていますが、動脈の弾力性を高めて(動脈硬化を改善して)高血圧を改善するものはほとんどなく、対症療法的(強制的)に血圧を下げるものでした。そのため、特に中高年の人の高血圧の場合(その原因は主に動脈硬化です)、薬(対症療法薬)を使うことで血圧はある程度下がっても、動脈硬化は進み続け、それに伴って高血圧も悪化していきます。それに対応するため薬の量が増えたり、薬の種類が増えていくことになります。また、一生薬を飲み続けなければならないことになります。つまり、現在の高血圧薬は動脈硬化が原因の高血圧に対しては根本治療薬ではないということになります(一部の薬については血管の弾力性を高める副次的な作用もあるとする報告はありますが、基本的には動脈硬化を強力に改善する作用はほとんどないか弱いと考えられます)。
本臨床試験の結果は、高血圧の薬を一種類または数種類服用している患者において、アルギニンの6ヶ月間の摂取は高血圧を改善し、収縮期血圧を正常値近くまで低下させました(拡張期血圧は変化しませんでしたが、試験前においてすでに拡張期血圧は正常血圧の範囲内にあり、これ以上低下しなかったものと考えられました。すなわち、アルギニンは低血圧を引き起こす心配がないと考えられます)。アルギニンによる収縮期血圧の低下はアルギニン摂取後5ヶ月目から見られました。一方、動脈の弾力性については、アルギニン摂取後3ヶ月目から明らかに弾力性が高まり、その後改善し続け、6ヶ月目でもそれが頭打ちになることはありませんでした。このことから、アルギニンの高血圧改善作用(血圧低下作用)は、アルギニンの動脈弾性改善作用(動脈硬化改善作用)によって引き起こされたと考えられました。さらに、アルギニンをさらに飲み続けることで動脈の弾力性(動脈硬化)はより改善し、血圧も正常値、さらには至適血圧(収縮期血圧120mmHg未満でかつ拡張期血圧80mmHg未満)になる可能性も考えられました(加齢による(動脈硬化による)高血圧が根本的に治る可能性があります)。
なお、アルギニンによって動脈硬化が改善されるということは、アルギニンの不足が動脈硬化の大きな原因の一つになっていると考えられます。現在のライフスタイルや加齢(老化)がアルギニンの不足を招いていることになりますので、アルギニンの不足を補うためアルギニンの摂取を継続することをお勧めします。アルギニンの摂取を止めるとアルギニンの不足によって動脈硬化が進行する可能性が大きいと考えられます。
アルギニンがどのようにして動脈硬化を改善するかについては、アルギニンの内皮改善作用、一酸化窒素(NO)生成増加作用、糖化抑制作用、抗酸化作用などが関わっているものと考えられます。
アルギニンの動脈硬化改善作用は抗酸化剤のビタミンCやEによって増強されますので、アルギニンと一緒にビタミンCやEを摂取されることをお勧めします。
(アルギニンの動脈硬化抑制作用については「アルギニンは動脈硬化および心血管病を予防・改善します!」をご覧下さい)
(アルギニンが高血圧を予防・改善する他のデータ(医学文献)については「アルギニンは高血圧を予防・改善します!」をご覧下さい)
●アルギニンを摂取する場合の注意点 これについては『アルギニンの安全で効果的な飲み方』、および『アルギニンサプリメントの正しい選び方』をご覧ください。
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