アルギニンは、動脈硬化で硬くなった血管の弾力性を高め(血管を柔らかくし)、心血管病(心筋梗塞、脳梗塞など)のリスクを下げることが分かりました。
  
  H. Guttmantらは、心血管病(動脈硬化が主な原因の心筋梗塞、脳梗塞などの病気)の危険因子(リスクファクター)を複数持っている患者において、アルギニンが血管の弾力性を高め、心血管病のリスクを低下させることを示しました(文献:Hila Guttman, Reuven Zimlichman, Mona Boaz, Zipora Matas, Marina Shargorodsky. Effect of Long-Term L-Arginine Supplementation on Arterial Compliance and Metabolic Parameters in Patients with Multiple Cardiovascular risk Factors: Randomized, Placebo-Controlled Study. J Cardiovasc Pharmacol. 2010 Jun 7.)。


【試験の背景】
  アルギニンが動脈硬化を予防・改善する多くのデータ(医学文献)があります(アルギニンの動脈硬化抑制作用については「アルギニンは動脈硬化および心血管病を予防・改善します!」をご覧下さい)。

  本臨床試験では、心血管病の危険因子を複数持った中高年者(動脈硬化がかなり進んでいると考えられます)において、アルギニンの長期間(6ヶ月)の摂取が動脈の弾力性(動脈硬化の指標の一つ)を高めて動脈硬化を抑制し、心血管病のリスクを低減しうるかについて検討されました。


【結果】
  
少なくとも二つ以上の心血管病(動脈硬化性疾患)の危険因子を持つ患者(90人)が試験に参加しました。これらの患者を2グループにわけ、一方のグループには1日6gのアルギニンを毎日経口的に摂取させました(アルギニングループ)。他方のグループにはプラセボを摂取させました(プラセボグループ)。試験前に継続的に摂取していた薬はそのまま服用を継続させました。試験は二重盲検法※1によって行われました。動脈硬化を測定する方法として種々の方法がありますが、本試験では動脈の弾力性を測定しました。動脈の弾力性はPulse Wave Contour Analysisを用いて評価されました。

  最初の90人の患者のうち、6ヶ月の試験を終了したのは77人でした(アルギニングループ43人。プラセボグループ34人)。試験を完了した2グループの間で、男女比、年齢、BMI、危険因子(糖尿病、高血圧、脂質異常、など)の種類や罹患率、服用薬の種類や服用率、生化学的パラメータなどに統計学的な差はありませんでした。なお、アルギニングループの男女比(28/17)、平均年齢(62歳)、平均BMI(32)、糖尿病率(77%)、高血圧率(79%)、脂質代謝異常率(77%)などでしたが、プラセボグループとの間にこれらの値について統計学的な差はありませんでした。薬の服用率は糖尿病薬は約7割、高脂血症薬は約7割、高血圧薬は約8割程度でした。試験を終了できなかった患者の理由は個人的なもので、副作用によるものではありませんでした。試験期間中、アルギニンによると考えられる副作用はありませんでした。

  アルギニングループ(1日6gのアルギニンを毎日経口的に摂取)の6ヵ月後の変化は、動脈(大きい)の弾性指数(血管の弾力性を表す指数)(平均値)が12.7に上昇し(試験前は10.6)、動脈の弾力性(柔らかさ)が高まっていました※2。一方、プラセボグループでは弾性指数(平均値)は悪化していました(試験前11.6が試験後8.0に悪化)。すなわち、プラセボグループでは動脈硬化を防ぐための種々の薬(糖尿病薬、高脂血症薬、高血圧薬など)を服用していたにもかかわらず、動脈の弾力性は低下し動脈硬化が進行していることが示されましたが、アルギニングループでは、弾力性は高まり、動脈硬化の進行を止めるどころか、改善していることが示されました。アルギニンの動脈弾力性改善作用を経時的に見てみますと、アルギニン摂取後3ヶ月目から明らかに弾力性が高まり、その後改善し続け、6ヶ月目でもそれが頭打ちになることはありませんでした。。このことから、アルギニンをさらに飲み続けることで動脈の弾力性(動脈硬化)はより改善する可能性が示されました。

  このように、アルギニンは、長期摂取(6ヶ月間)によって、薬による治療では改善するどころか悪化した、動脈(大きい)の弾力性を高めて動脈硬化を改善し、心血管病のリスクを低下させました。


※1二重盲検法:医薬品やある成分の効果を正しく判定するための統計的手法です。プラセボ(効果が無い偽薬)によるプラセボ効果(思い込み効果)を除くために、医者にも患者にもどちらが効果のある「披検薬」で、どちらが効果の無い「プラセボ」であるか、分からないようにして、治験(臨床試験)を進める方法です。医薬品やある成分をプラセボ(効果が無い偽薬)と同時に投与してその効果を判定します。医薬品やある成分の効果が、プラセボの効果よりも統計的に明らかに(有意に)高ければ医薬品やある成分は正しく効果があるということになります。

※2弾性指数(Pulse Wave Contour Analysis):動脈(大きい)の弾性指数(血管の弾力性を表す指数)に関しては、本試験の患者(平均年齢62歳)とほぼ同年齢(平均年齢61歳)の肥満していない(肥満は動脈を硬くします)ほぼ健康体の人(33人)の平均値は16.2(ml/mmHgX10)と報告されています(Vascular Medicine 2007; 12: 183-188)。


【解説】
  
「人は血管とともに老いる」といわれていますが、血管の老化である動脈硬化はすでに10代からはじまります。そして、年齢を重ねる(加齢)にしたがって確実に増え、30代では4分の1に、40代ではほぼ半数あまりに、60代以上ではほとんどの人に動脈硬化がみられるといわれています。動脈硬化が原因となる病気には心血管病といわれている心筋梗塞、脳梗塞などがありますが、いずれも致死的(死に直結する病気)であり、日本を含む先進国では死亡原因のほぼ第一位となっています。そのため、動脈硬化の治療法の開発は焦眉の急となっておりますが、未だ決め手となる治療法はないのが現状です。今後、世界人口の高齢化は進み続けますので、心血管病による患者数や死亡数も今後も増加し続けるものと考えられます。〔血管の老化(動脈の硬化)が心血管病を引き起こす原因になることについて詳しくは次の文献等をご覧下さい:J Nephrol 2007; 20: S45-S50; Hypertension 2005; 46: 454-462; Postgrad Med J 2006; 82:357-362; Vascular Medicine 2007; 12: 329-341など〕。

  動脈硬化は、その名の通り動脈が硬くなることですが、その原因は動脈の一番内側にある内皮細胞の働きが何らかの原因で異常を起こすことが引き金になって起こると考えられています。内皮細胞は、種々の生理活性物質を産生し、血管が正常に働くようにコントロールしています。しかし、その働きに異常が起こると生理活性物質の産生に異常が生じてきます。中でも一酸化窒素(NO)は内皮細胞でつくられ、血管を拡張し、血小板の凝集を抑制し(血栓の形成を抑制します)、血管の柔らかさを保ち血管が硬くなる(動脈硬化になる)のを防いでいますが、内皮細胞の働きに異常が起こり、一酸化窒素の生成が低下すると、血管が拡張しにくくなり、血栓ができやすくなり、血管が硬くなって動脈硬化になりやすくなります。そして、一酸化窒素の生成の低下が続くと動脈硬化は進行(悪化)し続けることになり、最後には心血管病(心筋梗塞、脳梗塞など)を引き起こすことになります。内皮細胞が異常を起こす原因として、加齢(老化)、高脂血症、高血圧、糖尿病などが知られています。これらはいずれも動脈硬化や心血管病を引き起こす危険因子(リスクファクター)として良く知られています。

  内皮細胞の働きを改善し、一酸化窒素の生成を促進するものとして、アルギニンが知られています。アルギニンは内皮細胞にある一酸化窒素合成酵素というものによって一酸化窒素に変化します。また、アルギニンは一酸化窒素合成酵素の働きを高めます。これによってアルギニンは一酸化窒素の生成を高めるものと考えられます。実際、アルギニンは、血管を拡張し、血小板の凝集を抑制し、動脈硬化を抑制するという多くのデータ(医学文献)があります。(アルギニンの動脈硬化抑制作用については「アルギニンは動脈硬化および心血管病を予防・改善します!」をご覧下さい)。

  本文献では、心血管病の危険因子(リスクファクター)を複数持ち、動脈硬化がかなり進んでいると考えられる患者において、アルギニンの長期摂取(6ヶ月間)が患者の動脈(大きい)の弾力性を高める(動脈を柔らかくする)ことを明らかにしました。動脈の硬化度の上昇は心血管病のリスクを高めますので、その改善(柔らかくすること)はそのリスクを低下させます。つまり、アルギニンが動脈(大きい)の弾力性を高めた(動脈を柔らかくした)ということは心血管病のリスクを低下させたといえると思います。

  本文献で注目されることは、患者は複数の心血管病の危険因子を持っていることから、動脈硬化がかなり進んでいると考えられること、危険因子を強力に改善する複数の薬剤、糖尿病薬(メトフォルミン、グリタゾン系薬)、高脂血症薬(スタチン系薬、フィブラート系薬)、高血圧薬(ACE阻害薬、ARB薬、カルシウム拮抗薬など)などを服用していることです。つまり、危険因子に関してはかなり強力に薬によってコントロールされているはずです。ところが、弾性指数はアルギニンを摂取していないプラセボグループでは6ヶ月間でより悪化していました(試験前11.6が試験後8.0に悪化)(動脈硬化がより進んでいました)。つまり、薬で危険因子をしっかり治療しているようでも動脈硬化は進行し、心血管病のリスクは上昇していることになります。すなわち、現在の薬は高血圧や高脂血症や糖尿病を改善するのであって、肝心の動脈硬化そのものを改善できない、あるいは改善する力が弱いということを示していると考えられます。
(※高血圧や高脂血症や糖尿病を治療する真の目的は、心血管病の主な原因である動脈硬化の進行を遅くするためです。高血圧や高脂血症や糖尿病は動脈硬化の進行を促進しますので、それを治療すれば動脈硬化の進行が遅くなり、心血管病のリスクの上昇速度も遅くなるからです。では、動脈硬化そのものを改善すればもっと良いのではと考えられますが、現状は動脈硬化を直接強力に改善できる治療法がほとんどありません)。

  一方、プラセボグループと同様な条件の患者において、アルギニンの6ヶ月の摂取によって、動脈(大きい)の弾力性は3ヶ月目から明らかに高まり、その後改善し続け、6ヵ月後でもそれが頭打ちになりませんでした。つまり、6ヶ月を超えて摂取し続けることでさらに弾性指数が改善(動脈の硬化が改善)されることが期待できるということです。アルギニングループでは6ヵ月間で、動脈(大きい)の弾性指数が、試験前の10.6から12.7に改善しましたが、同年齢帯の健康体の弾性指数(文献から16.2程度と考えらます)にはまだ遠い状態です。より長期のアルギニンの摂取でどこまで健康体の弾性指数に近づけるか、すなわち健康な血管(動脈)を取り戻せるかは大変興味あるところです。

  アルギニンの動脈硬化改善作用には、アルギニンの内皮改善作用、一酸化窒素(NO)生成増加作用のほか、糖化抑制作用、抗酸化作用などが関わっているものと考えられます(詳しくは「アルギニンは動脈硬化および心血管病を予防・改善します!」をご覧下さい)。

  アルギニンの動脈硬化改善作用は抗酸化剤のビタミンCやEによって増強されますので、アルギニンと一緒にビタミンCやEを摂取されることをお勧めします。



●アルギニンを摂取する場合の注意点
  これについては『アルギニンの安全で効果的な飲み方』、および『アルギニンサプリメントの正しい選び方』をご覧ください。










【お問合せ先】
本ページおよびアルギニンに関するお問い合わせは本ページ責任者古賀までお願いします(Eメール:kogahrs555@nifty.com


上記以外のアルギニンの働きについてお知りになりたい方は
アルギニンで若返る!』をご覧ください。