●Lubecらは、アルギニンの長期投与によって、がんの発生数が抑制され、生存数が増加することを示しました(Life Sci., 1996; 58:
2317-2325)。マウス(各150匹)に、アルギニン(1日50mg/kg)またはタウリン(1日50mg/kg)を1年間経口投与しました。比較のため薬剤を投与しない群(コントロール群)を設けました。その結果、アルギニンの投与によって、マウスの生存数はコントロール群に比較し有意に増加しました(アルギニン投与群の生存数132匹、タウリン投与群の生存数122匹、コントロール群の生存数116匹)。腫瘍数(悪性と良性)はアルギニン投与群で有意に減少しました。一方、タウリン投与群では良性腫瘍数のみが有意に減少しました。アルギニンとタウリンはリンパ球を活性化し免疫系を増強します。アルギニンはマクロファージを活性化し腫瘍細胞傷害性を増強します。両化合物は脂質過酸化を抑制します。これらの作用によって、アルギニンは腫瘍の発生を抑え、生存数を増加させたと考えられました。
【解説】
色んなライフスタイルが寿命にどういう影響を与えるかが研究されています。例えば、食餌制限(食事の量、あるいはカロリーを通常の5〜8割程度に減らす)によってラットやマウス※で寿命が最大40%も延びたとのことです。食餌制限によって、様々な老化変化、例えば免疫力の低下、学習能力の低下、繁殖力低下、肝機能低下、脂肪分解能低下、活性酸素に対する抵抗力の低下、タンパク糖化の増加などが抑えられることが明らかにされています。これにより病気に対する抵抗力が増し寿命が延びたのではないかと考えられます。
本文献は、アルギニンをマウスに1年間(マウスの寿命は約2年ですので1年間はほぼ半生に相当します)経口投与すると、アルギニンを投与したマウスではアルギニンを投与しないマウスに比べがんの発生が少なく、生存数が増えた(寿命が延びた)というものです。アルギニンは、免疫力の低下、学習能力の低下、繁殖力低下、肝機能低下、脂肪分解能低下、活性酸素に対する抵抗力の低下、タンパク糖化の増加などを抑える働きがあるために、食餌制限と同様な働きで寿命を延ばした可能性があります。
また、本文献からアルギニンの投与量は1日50mg/kgであることから、人で寿命を延ばすことを期待してアルギニンを長期間摂取する場合のアルギニンの摂取量は1日2〜4gくらい(人の体重を40〜80kgとして)が妥当ではないかと考えられます。
※寿命へのライフスタイルの影響は、人では数十年単位で見る必要があるために、人での厳密な実験は現実的に大変困難であり、一般に動物(ラットやマウス、時にはサルで)で行われています。