●Lucottiらは、アルギニンが肥満2型糖尿病患者の血糖値、肥満および血管合併症の原因を改善することを示しました(
Am J Physiol Endocrinol Metab, Nov 2006; 291: E906 - E912)
。
アルギニンは、2型糖尿病患者でインシュリンを増やし、インシュリン感受性(インシュリンの働き)を高めて血糖値を下げ糖尿病を改善することが報告されています。また、糖尿病合併症を改善することが知られています。(『
アルギニンは糖尿病・糖尿病合併症を予防・改善します!』を参照下さい)
Lucottiらは
、肥満した2型糖尿病患者(インシュリン感受性が低下した)にアルギニンを長期に摂取させて血糖値、体脂肪、インシュリン感受性、血管内皮機能
※1などにどういう効果があるかを検討しました。
2型糖尿病患者(33人)を21日間の低カロリー食(1日1,000kcal)と運動療法(1日1時間半の運動を週に5日)の試験に参加させました。これらの患者は2つのグループに分けられ、一方には1日8.3gのアルギニンを摂取させました(16人:女性12人、男性4人)(アルギニングループ)。また、他方にはプラセボ(アルギニンが入ってない偽薬)を摂取させました(17人:女性13人、男性4人)(プラセボグループ)。試験は二重盲検法※2で行いました。試験期間中これらの患者には副作用はありませんでした。
その結果(表参照)、低カロリー食と運動療法(プラセボグループ)によって体重、ウェスト周囲径、血糖値、フルクトサミン値(検査前1〜3週間の血糖コントロール状態を示します)、インシュリン値などは明らかに(統計的に有意に)低下しました(すなわち、低カロリー食と運動療法によって、体重や腹部脂肪が減少し、インシュリン感受性が高まり、血糖値が低下して糖尿病と肥満が改善しました)。
一方、低カロリー食と運動療法に加え、アルギニンを1日8.3g毎日摂取させると(アルギニングループ)、低カロリー食と運動療法の場合よりもさらに大きく(統計的に有意に)体脂肪、ウェスト周囲径、血糖値、フルクトサミン値は減少しました(血糖値はほぼ正常まで改善しました)。また、インシュリン値はさらに減少し(統計的に有意に)、インシュリン感受性はさらに高くなりました。さらに、アルギニングループでは内皮機能が改善され血管合併症の危険が低下しました。
加えて、アルギニングループでは血圧(収縮期と拡張期)が正常値まで低下しました(統計的に有意に)が、プラセボグループでは変化はありませんでした。
アルギニングループではアディポネクチン
※3が増加しました(統計的に有意に)が、プラセボグループでは変化はありませんでした。
アルギニンのこれらの働きは主に、アルギニンから生成する一酸化窒素(NO)によるものと考えられました。
このように、アルギニンは、肥満した2型糖尿病患者(低カロリー食と運動療法で治療中の)で体脂肪(および腹部脂肪)をさらに減少させて肥満を改善し、血糖値をより低下させて(ほぼ正常まで低下させて)糖尿病を改善しました。さらに血管の内皮機能を改善して血管合併症の危険を低下させました。また、血圧も低下させ(正常値まで)動脈硬化の危険もさらに低下させました。
※1 血管内皮機能:糖尿病では高血糖によって血管の内皮機能が障害されることが血管合併症(神経症、網膜症、腎症、動脈硬化、心筋梗塞、脳梗塞、壊疽、EDなど)の大きな原因になると考えられています。そのため、内皮機能が改善されると血管合併症の危険が低下します
※2 二重盲検法:医薬品やある成分の効果を正しく判定するための統計的手法です。医薬品やある成分をプラセボ(効果が無い偽薬)と同時に投与してその効果を判定します。医薬品やある成分の効果が、プラセボの効果よりも統計的に明らかに(有意に)高ければ医薬品やある成分は正しく効果があるということになります。
※3 アディポネクチン:アディポネクチンは脂肪細胞から分泌されるホルモン(善玉ホルモン)で、筋肉や肝臓の細胞が脂肪を燃焼するのを助け、肥満、糖尿病、動脈硬化などを防ぎ、メタボリックシンドロームを抑える働きがあるといわれています。ところが肥満、特に腹部肥満の人でアディポネクチンが減少し、これが肥満(腹部肥満)によるメタボリックシンドロームの大きな原因の一つであることが示されてきています。そのためこれを増やすことで肥満やメタボリックシンドロームの改善が期待できます。(参考文献:Adiponectin and adiponectin receptors in insulin resistance, diabetes, and the metabolic syndrome. Takashi Kadowaki, Toshimasa Yamauchi, Naoto Kubota, Kazuo Hara, Kohjiro Ueki, and Kazuyuki Tobe,J. Clin. Invest., Jul 2006; 116: 1784 - 1792など)
表:肥満2型糖尿病患者に対する低カロリー食と運動療法の効果、およびそれに対するアルギニンの増強効果
|
プラセボグループ(P) |
アルギニングループ(A) |
|
試験前 |
試験後 |
変化 |
試験前 |
試験後 |
変化 |
体 重
(kg) |
102.1 |
98.4 |
-3.7 |
105.8 |
102.8 |
-3.0 |
脂肪重量
(kg) |
46.8 |
44.7 |
-2.1 |
49.3 |
46.3 |
-3.0 |
除脂肪体重
(kg) |
55.3 |
53.6 |
-1.7 |
56.5 |
56.5 |
0.0 |
ウェスト周囲径
(cm) |
116.7 |
113.5 |
-3.2 |
121.1 |
112.8 |
-8.3 |
収縮期血圧
(mmHg) |
149 |
149 |
0 |
151 |
128 |
-23 |
拡張期血圧
(mmHg) |
89 |
88 |
-1 |
90 |
78 |
-12 |
平均空腹時血糖値
(mg/dl) |
156 |
123 |
-33 |
163 |
106 |
-57 |
フルクトサミン
(μmol/l) |
280.8 |
257.8 |
-23 |
274.6 |
220.4 |
-54.2 |
空腹時インシュリン値
(mU/l) |
18.6 |
15.6 |
-3 |
21.8 |
13.6 |
-8.2 |
アディポネクチン
(ng/ml) |
4.2 |
4.2 |
0.0 |
4.0 |
5.6 |
1.6 |
(解説)
糖尿病は、糖尿病になりやすい体質の人〔膵臓の働きが元来(遺伝的に)弱くてインシュリンを十分に出すことができない人。日本人の多くはこのタイプです〕が、食べ過ぎと運動不足により体重過多(肥満)になることでインシュリンの働き(インシュリン感受性)が悪くなり発病します。すなわち、日本人の多くが肥満によって糖尿病になる危険があります。
この理由から、糖尿病の治療は先ず、低カロリー食と運動療法によって肥満を改善することから始めます〔糖尿病になりたての人は痩せると多くの場合血糖値が低下し糖尿病が改善したり正常化します。薬(血糖低下剤)は最初からは処方しません。低カロリー食と運動療法を指導しないで血糖低下剤をすぐ出すのは間違っています〕。低カロリー食と運動療法をしっかりやって痩せれば多くの人は血糖値は正常になります。しかし、また油断して肥ると(遺伝的に糖尿病のリスクを持っていますので)血糖値は上がって糖尿病に逆戻りです。これを繰り返していると低カロリー食と運動療法をやっても血糖値は元に戻らなくなって糖尿病が一生続くことになり(膵臓に負担をかけることで膵臓が弱っていくためインシュリンの出が徐々に悪くなっていくためです)、そのうち合併症が出てきて悲惨な結果となります。こうならないためには、糖尿病(望ましくは糖尿病予備軍)と診断された最初の段階から、規則的な生活と厳密な低カロリー食と運動療法を一生続ける覚悟が必要です。
アルギニンは、インシュリンの出を良くして、インシュリンの感受性を高めて血糖値を低下させ糖尿病を改善します。また、合併症を予防し改善します。(『
アルギニンは糖尿病・糖尿病合併症を予防・改善します!』を参照下さい)。
本文献は、低カロリー食と運動療法で治療している場合でも、アルギニンを摂取することでさらに体脂肪や腹部脂肪を減らして肥満を改善し、血糖値をより低下させて(血糖値をほぼ正常まで改善して)、糖尿病を改善することを示しています。さらに血管の内皮機能を改善し、血圧をさらに低下させることで合併症(動脈硬化を含む)の危険をさらに低下させることを示しました。
このように、アルギニンは糖尿病の軽症から重症(合併症を併発している場合)まで広く改善できることが明らかになりました。また、アルギニンは血糖値の改善だけでなく、肥満(腹部肥満)、高血圧、合併症の改善まで一つでできる初の成分と考えられます。
特に、アルギニンは生体成分(体に必要なアミノ酸)であり、安全性が高く副作用の心配がほとんどないため安心して摂取できることから、糖尿病の初期段階から食事療法や運動療法をより強化するため、また、中等症から重症(合併症)まで医薬品をサポートするため、糖尿病の方あるいは糖尿病が心配な方に是非お勧めしたいサプリメントです。