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【目次】 1.ミトコンドリアとは 2.ミトコンドリアと老化、老化病、肥満、メタボリックシンドロームとの関係 2−1)ミトコンドリアと老化および老化病
2−2)ミトコンドリアと肥満 2−3)ミトコンドリアとメタボリックシンドローム 3.アルギニンはミトコンドリアにどういう働きを示すか 4.アルギニンによる寿命延長、および老化、老化病の予防・改善効果
4−1)アルギニンの寿命延長作用 4−2)アルギニンの老化および老化病の予防・改善効果 5.お知らせ(ホームページ責任者、参考図書) 【お問合せ先】 本ページおよびアルギニンに関するお問い合わせは本ページ責任者古賀までお願いします。 (e-mail: kogahrs555@nifty.com) ★上記以外のアルギニンの働きについてお知りになりたい方は 『アルギニンで若返る!』をご覧ください。 |
1.ミトコンドリアとは 電気は私たちが生活していくうえでなくてはならないもので、もし電気が不足したり供給されなくなると私たちの生活は大変不自由になり、また都市機能そのものが破たんしてしまいます。 それと同様に私たちが生きていくためにはエネルギーが必要です。動いているとき、運動しているとき、また、寝ているときでさえ私たちの体は常にエネルギーを必要とします。私たちの体がエネルギーとして使っているものはATPといわれる高エネルギー化学物質です。もし私たちの体の中でATPが作られなくなったらすぐに死んでしまうでしょう。またその供給量が少なくなったら体がうまく働かなくなって元気がなくなったり、疲れやすくなったり、代謝がうまくいかなくなったり、老化が進んだり、色んな病気になってしまうでしょう。 ではエネルギーの元であるATPはどこで作られているのでしょう。そのほとんど(80〜90%)はミトコンドリアというところで作られています。ミトコンドリアという言葉は最近書物やテレビなどでよく取り上げられていますのでご存知の方も多いのではないでしょうか。(文献1)〔最近では、ミトコンドリアは「ためしてガッテン」で取り上げられました(2015年8月26日放送)〕。 ミトコンドリアというのはほとんどの細胞の中にある小器官のひとつで、その量は消費されるエネルギーと関係があり、エネルギーをたくさん使う部位(組織や臓器)の細胞にはミトコンドリアの量も多く存在します。体内のエネルギーの4割を消費する骨格筋ではたくさんのミトコンドリアが見られます。特に心臓には臓器の中で一番多くのミトコンドリアが存在します。これは心臓がいつも動いているからでエネルギーを最も多く使うからです。このようにミトコンドリアは細胞に必要なエネルギーのほとんどを生成するために、細胞内の”発電所”と呼ばれています。 実際の発電所(火力)では、燃料として主に石炭、石油、天然ガスを使いますが、ミトコンドリアでは食物として摂取した脂肪、炭水化物、タンパク質が燃料となります。実際にはそれらが消化吸収された脂肪酸、グリセロール、グルコースなど(糖類)、アミノ酸が燃料となります。それらが利用されやすい形に変えられて、ミトコンドリア内で酸素と反応してエネルギーであるATPを生成します。これはミトコンドリアから細胞内に放出されてエネルギーとして使われます。上に述べましたように多くのエネルギ−を必要とする細胞には多くのミトコンドリアが存在します。 一方、ミトコンドリアで食物の酸化によって生じたエネルギーの一部は熱として放出されます。これは体温の維持に使われます。熱産生に特化した細胞に褐色脂肪があります。褐色脂肪組織は特に体内で熱発生が必要な時〔寒冷下におかれた時(非ふるえ産熱)など〕活発に活動します。この組織には特にミトコンドリアの量が多いことが知られています。ここでは特にグルコースと脂肪酸の両者の酸化が活発です。褐色脂肪組織ではこれらの酸化によって得られたエネルギーはほとんどが熱になり、ATPの生成はわずかにすぎません。興味あることに肥満の人では褐色脂肪組織が減少しているかほとんど無いといわれています。 このように私たちの体に必要なエネルギー(ATP)のほとんどはミトコンドリアで生成されることが分かりました。ではこのミトコンドリアに異常がおこったり、数が少なくなったらどうなるでしょうか。その場合、ミトコンドリアの働きが悪くなったり不足したりして、体に必要なエネルギーは不足し、様々な影響が出てきます。例えば、少し〜中程度に不足した場合は、疲れやすくなったり、疲労が抜けにくくなったり、頑張りが効かなくなったり、太りやすくなったり(食べたものが消費されにくくなって脂肪として蓄積されやすくなります)、老化が進んだり(代謝が悪くなるため)すると考えられます。それが持続すると老化病、肥満、糖尿病などを引き起こす原因となり、寿命も短くなると考えられます。また最近では、ミトコンドリアの異常とがんの転移やアルツハイマー病が関係あることが言われています。実際、老化によってミトコンドリアの数や機能が低下することが知られています。 (文献) 1.例えば、古くは「パラサイト・イヴ」(瀬名秀明のデビュー作となったホラー小説)、最近では「ミトコンドリアの新常識」(NHKサイエンスゼロ、2011年)、「ウェスト20cm減、体重15kg減!ミトコンドリア・ダイエット」(内藤眞禮生、2012年)など) |
2.ミトコンドリアと老化および老化病、肥満、メタボリックシンドロームとの関係 |
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2−1)ミトコンドリアと老化および老化病 ミトコンドリアは細胞のエネルギー生産を担う重要な細胞内小器官で、二重の生体膜で包まれ独自のDNAを持っています。老化の原因として注目されているものに「ミトコンドリアフリーラジカル説」があります。それによると、加齢に伴って蓄積されるミトコンドリアDNA(mtDNA)、タンパク質、内膜、外膜の酸化損傷がミトコンドリアの機能を低下させ、それが老化の原因になると考えられています(文献1)。 ミトコンドリアではATPを生産する過程において、酸化に使われた酸素の一部が活性酸素(スーパーオキシド)に変わります。成人1人が1日に消費する酸素は700リットル程度と言われていますが、そのうち3〜5%が活性酸素に変わると言われています(文献2)。また、そのうちおよそ90%の活性酸素がミトコンドリアで生成されます(文献1)。活性酸素はATPの生産量が多いほど多く生成します。例えば、運動するとより多くのATPを必要とするため、より多くの活性酸素が発生します。ミトコンドリアには活性酸素を消去するシステムが備わっていますので、これが十分働いている若い細胞のミトコンドリアでは通常活性酸素は消去され問題は生じません。ところが、激しい運動をしたりして大量の活性酸素が生じ防御システムの限度を超えたり、加齢によって防御システムの働きが低下してきますと、ミトコンドリア内に活性酸素が残存し、それがミトコンドリアのタンパク質、mtDNAあるいは膜の酸化損傷を引き起こし、ミトコンドリアの機能障害(ATPの生産低下、活性酸素の生成増加など)や形態異常などが起こると考えられています。これが細胞の老化、ついで個体の老化の促進や寿命の短縮を引き起こすものと考えられています。 では、ミトコンドリアが異常を起こすとどういう老化現象が生じるのでしょうか。ミトコンドリアDNAの修復機能を欠失した異常なミトコンドリアを持つ遺伝子改変マウスでは、脱毛、白髪化、脊柱後わん症、胸腺退縮、睾丸萎縮による精祖細胞の空乏、骨量の低下、腸陰窩、赤血球の循環障害、体重低下、筋肉減少症など老化に特異的な症状を示しました。また、寿命においては、正常型のマウスに比べ平均寿命が半分以下に短縮されました。これらの結果から、ミトコンドリアの異常が老化を促進し、寿命を短くすることが明らかになりました(文献1)。 一方、ミトコンドリアの抗酸化防御能を高めた場合には寿命は延びるのでしょうか。ミトコンドリアの抗酸化防御能を高めたトランスジェニックマウス(遺伝子導入マウス)は普通のマウスに比べ寿命が2割も伸びました。また、このようなトランスジェニックマウスでは老化に伴う病変も軽度でした。 このように、ミトコンドリアの異常による機能低下はエネルギー(ATP)の生成を低下させたり、活性酸素の生成を増加させたりして、細胞や個体の機能を低下させ、老化を促進し寿命を短くします。一方、ミトコンドリアの活性増加や異常の抑制は老化を抑制し寿命を延ばすことが明らかとなりました。 では、私たちはどういうことに気を付けて生活すればミトコンドリアを活性化し老化を抑え寿命を延ばすことができるでしょうか? 現在最も確実に老化を抑え寿命を延長する方法はカロリー制限です。カロリー制限によって、がん、動脈硬化、糖尿病などの老化病にも罹りにくくなることが知られています。カロリー制限による寿命延長に関与する主要な因子としてサーチュインが注目されています(文献1)。最近の研究では、カロリー制限はeNOS〔アルギニンから一酸化窒素(NO)を合成する一酸化窒素合成酵素(NOS)の一つで、血管内皮細胞で見出された〕を誘導することが報告されています。生成増加したNOは、白色脂肪、褐色脂肪、脳、肝臓、心臓などの組織や器官で、ミトコンドリアタンパク質、ミトコンドリアDNA(mtDNA)、酸素消費およびATP合成を増やします。また、NOはサーチュイン(SIRT1)を活性化することが知られています。サーチュインは細胞の寿命延長に重要と考えられています。さらにサーチュインは、PGC−1α(ミトコンドリアの合成を促進する因子)を増やし脂肪細胞でミトコンドリアの合成を促進します。サーチュインはまた抗酸化酵素を誘導します。カロリー制限はミトコンドリアの合成を増やします。NOは脂肪酸の酸化、脂肪分解を増やし、脂肪の蓄積を減少させ、老化や老化病を予防したり寿命の延長に寄与します。以上のことをまとめてみますと、カロリー制限はeNOSを活性化し、NOを増やします。NOはサーチュイン(SIRT1)を活性化し、PGC−1αを増やします。PGC−1αは遺伝子に働いてミトコンドリアの合成を促進します。細胞はミトコンドリアが増えることで、脂肪酸酸化、脂肪分解が増加し、脂肪の蓄積が減少し、酸素消費が増え、ATPの生成が増加します。一方、ミトコンドリアが増えたり働きが高まると活性酸素の生成が増え、酸化ストレスにより細胞が障害されてかえって老化が促進するのではないかと危惧されますが、サーチュインは抗酸化酵素を誘導し酸化ストレスを低減させますのでその心配は少ないと考えられます。これらによって、老化が抑制され、動脈硬化、糖尿病、がんなどの老化病に罹りにくくなり寿命が延長するものと考えられます(図1)(文献3、4)。 UCL (University College London)(資料5)のDr Nick Laneは、「もし長生きしたければ、そして老化や老化病に罹りたくなければもっとミトコンドリアを増やしなさい」と述べています(文献3)。現代社会において私たちがカロリー制限を一生続けていくのは極めて困難です。そのため、ミトコンドリアを増やす現在最も良い方法の一つはNOを増やすことです。これによって、老化あるいは老化病を一気に予防・改善することが期待できます。これは現在の医薬品では不可能です。つまり現在医薬品には抗老化薬や長寿薬はありませんが、NOを増やすものがあればそれが抗老化薬や長寿薬になる可能性が非常に高いです。 図1.カロリー制限は、NOを介して、ミトコンドリアを増やし、活性化する。また、脂肪合成を減少させ、酸化ストレスに対する耐性を増加させ、老化や老化病を抑制し、寿命を延ばす。(文献3の図を改変) (文献、資料) 1)「老化・寿命のサイエンス」(実験医学増刊、2013)。 2)「ハーパー・生化学」(原書29版)(丸善出版、平成25年)。 3)"Nitric oxide and mitochondrial biogenesis" J. Cell Sci., 119, 2855 (2006). 4)「アンチエイジング医学の基礎と臨床」(日本抗加齢医学会。2011年) 5)UCLは、イギリスを代表する研究志向の総合大学です。2013年のQS世界大学ランキングで世界第4位。その時東京大学は32位。現在までUCLは卒業生、教員、創立者から20人以上のノーベル賞受賞者を輩出しています。(ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン。ウィキペディアより)。
2−2)ミトコンドリアと肥満 肥満は、消費エネルギーよりも摂取エネルギーが多いときに余ったエネルギーが脂肪として蓄えられることによって生じます(肥満については「絶対やせる!ダイエットの決め手はこれだ!」や「厚生労働省ホームページ」も参照ください)。肥満は、メタボリックシンドローム、インシュリン抵抗性(インシュリンが働きにくくなり高血糖になります)、2型糖尿病、動脈硬化、高血圧、高脂血症、ある種のがんの主な原因となります。これらの病気はいわゆる生活習慣病と呼ばれ、加齢と共に増加するため(そのため老化病にも属します)、高齢者の増加と共にその有病者は増加し続けており、その治療に使われる医療費はいまや全医療費の約3割を占め、医療費増加の主な原因となっています(厚生労働省統計資料)。そのため、医療費を抑制するためには、これら生活習慣病の原因となる肥満をなんとかしなければなりません。そうしないと、医療費は増え続け(団塊世代の高齢化に伴い益々増加します)、国民皆保険制度の崩壊にも結び付きかねません。日本における肥満率は、40〜60歳代の男性および60歳代の女性で30%以上となっており、今後の生活習慣病の増加が危惧されます(厚生労働省ホームページ)。 肥満はこのようにメタボリックシンドロームや生活習慣病の主な原因となりますが、一方で、特に容姿を気にする女性にとっては肥満は最も悩ましく避けたいものの一つと言えます。そのため、色んなダイエット法やサプリメントが現れ、ダイエット本もベストセラーになるほど売れていますが、これぞというものはほとんどなく出ては消え去っていくのがほとんどです。これは提唱されてきたダイエット法やサプリメントがほとんどが感覚的、イメージ的で、提唱者の思い込みや体験談によるもので、理論的な背景やデータに乏しいためと考えられます。そのため、このようないかがわしいダイエット法やサプリメントにだまされることなく(またテレビや雑誌などの広告にだまされることなく)、如何に普遍的で確実なダイエット法を見つけられるかどうかが、自分のダイエットを成功させるためには大変重要なこととなります。以下、これまで提唱されてきたダイエット法に比べ、はるかに理論的、実際的に優れたダイエット法をご紹介します。それは、肥満の原因論に根差した方法で最近学会等で急速に注目されてきている方法です。この方法はそのやり方さえ間違えなければ確実に痩せることができる方法と考えられます。 肥満の原因は言うまでもなく消費エネルギーに比べ摂取エネルギーが多いことによりますが、一方で食事量(摂取カロリー量)は同じでも太る人と太らない人がいるのも事実です。この差をもたらす原因は何でしょうか。この原因が明らかになりそれに対する対策がとれるようになれば、単にダイエットするだけよりもより容易に、そしてより確実に肥満を防いだり、やせたりすることができるようになるでしょう。また、少々食べ過ぎても太らずにすむかもしれません。 肥満者ではエネルギー(ATP)の生成が低下しています。体のエネルギー生成が低下すると体はエネルギーを要求するために食欲が増加します。これによって肥満者はさらに太ります(脂肪太りです)。いわゆる悪循環です(肥満地獄へ真っ逆さまです)。また、肥満者では運動能力の低下と易疲労性(疲れやすいこと)が見られますが、これは骨格筋でのATPレベルの低下と関係しています。ラットでの検討では、運動能力の低下したラットではより多くの内臓脂肪の蓄積が見られ、血圧、インシュリン抵抗性、血中中性脂肪なども高値でした。また、興味深いことに、運動能力の低下したラットでは、酸化的代謝〔食物として摂取した脂肪(脂肪酸)、炭水化物(糖)、タンパク質(アミノ酸)を酸素で酸化してエネルギー(ATP)を生成したり、熱に変換します〕の低下やミトコンドリア遺伝子発現の低下などのミトコンドリアの異常が見られました。このことは、運動能力の低下したラットでの内臓脂肪増加やその他の異常は、ミトコンドリアの合成や酸化的代謝の低下によるATP合成や熱産生の低下が原因と考えられました(文献1)。 肥満の動物モデルを用いた研究から、肥満モデルでは、白色脂肪組織、褐色脂肪組織、ヒラメ筋においてeNOS〔アルギニンから一酸化窒素(NO)を合成する一酸化窒素合成酵素(NOS)の一つで、血管内皮細胞で見出された〕の発現が顕著に低下していました(それによってNOの生成量が低下します。NOはPGC−1αなどの働きを介してミトコンドリアの合成と機能を高めますので、NOの生成量が低下しますとミトコンドリアの合成と機能が低下し、酸化的代謝とATP合成の低下が生じます)。また、酸素消費(酸化的代謝)やATP合成が低下するとともに、ミトコンドリアDNA(mtDNA)、呼吸に関係するたんぱく質、PGC−1α(ミトコンドリアの合成を促進する因子)などのミトコンドリアの合成や機能に関係する因子が低下していました。人においても、体脂肪やBMIが高い人ほど骨格筋のeNOSの量がより低下していました(文献1)。 これらの結果は、eNOS活性の低下(NO生成が低下)とそれに引き続くミトコンドリアの異常(酸化的代謝やATP合成の低下)が肥満の原因であると考えられました。 では、NOはエネルギー代謝やミトコンドリアにどのような影響を示すのでしょうか。上に述べましたように、NOはPGC−1αを活性化します。PGC−1αはミトコンドリアの合成と機能を高めますが、実際NOはミトコンドリアの合成を促進しました。褐色脂肪細胞(この細胞では脂肪酸などを燃やして熱に変えます。この働きが悪いと肥満になります)、骨格筋細胞など種々の細胞でNOはミトコンドリアの合成や機能(酸化的リン酸化など)を高め、ATP合成や熱産生を促進します。肥満者ではATPの合成や熱産生が低下し、これが肥満の原因になりますが、ミトコンドリアの数の減少と機能の低下がATP合成や熱産生の低下をもたらすために、NOによってミトコンドリアの合成と機能が高まるということは、NOは肥満の原因を根本から改善する理想的な抗肥満因子であると言えます。 NOはミトコンドリアの合成と機能を高めますが、それに加えてミトコンドリアのエネルギー(ATP)合成や熱産生を助ける、あるいは脂肪の蓄積を妨げる様々な働きをすることが示されました。これらの働きは肥満の抑制に働きます。例えば、NOはミトコンドリアへのエネルギー物質(脂肪酸など)の輸送を阻害する物質の濃度を低下させます。また、脂肪形成に関係のある遺伝子の発現を低下させます。NOはcGMPを介してリパーゼの活性を高め、白色脂肪組織での脂肪分解を促進します。NOは血流を促進し、脂肪酸、ブドウ糖および酸素の組織への供給を増加し、その結果ミトコンドリアでのこれらエネルギー物質の酸化(ATP合成と熱産生)を増加させます。 褐色脂肪組織は、ブドウ糖や脂肪酸を燃やして熱に変えますが、その働きは体熱の維持や不要なエネルギー物質(ブドウ糖や脂肪酸)の消費などに大変重要です。例えば寒冷刺激による熱産生は主に褐色脂肪組織において行われます。この組織の働きが低下すると不要なエネルギー物質(ブドウ糖や脂肪酸)は燃やされることなく残ることになり、この余分なエネルギーは脂肪などとして蓄積され肥満を誘導します。そのため、褐色脂肪組織をうまく増やすことができれば肥満を抑制できることになります。PGC−1αはミトコンドリアの合成を高めるとともに褐色脂肪組織を増やす働きを示します。NOはPGC−1αを活性化します。つまり、NOはPGC−1αを刺激し褐色脂肪組織を増やします。それによって不要なエネルギー物質を熱に変え肥満を抑制します。人において、褐色脂肪組織の活性は肥満体の人では低下していることが知られています。そして、褐色脂肪組織の活性が高い人は基礎代謝量も高いです。また、褐色脂肪組織の活性が高い人はBMIや白色脂肪、内臓脂肪が少ないことが明らかにされています。褐色脂肪組織の活性は年齢に依存します。つまり褐色脂肪組織の活性は若い人(23〜35歳)に比べ年齢が高い人(36〜65歳)では低下していました。このことが同じカロリーの食事をしても若い時に比べ年を取ると太りやすくなる原因となると考えられます(文献2)。 以上をまとめますと、NO〔NOはアルギニンを原料としてNO合成酵素(NOS)という酵素の働きで生成します〕はcGMPを介してPGC−1αの活性を高めてミトコンドリアの合成や機能を促進します。また、NOはリパーゼの活性を高めて脂肪の分解を促進し、血管に働いて血流を促進したりして、細胞やミトコンドリアにエネルギー物質(脂肪、ブドウ糖など)や酸素を供給しやすくします。これによってブドウ糖や脂肪酸などを酸化してエネルギー(ATP)に変える能力を高めます。加えて、NOは褐色脂肪組織を増やしその活性を高めます。褐色脂肪組織ではエネルギー物質は酸化され熱に変換されます。一方、NOは脂肪形成を抑制します。NOはこれらのメカニズムにより強力に脂肪の蓄積を抑えたり脂肪を減少させたりすることで、肥満を抑制したり体脂肪を減らすと考えられます。 図3.アルギニンからeNOSの働きで生成したNOは、cGMPの合成を促進し、次いでPGC-1αを活性化し、ミトコンドリアの合成と機能を高めます。また、NOはリパーゼの活性を高めて脂肪の分解を促進し、血管に働いて血流を促進したりして、細胞やミトコンドリアにエネルギー物質(脂肪酸、ブドウ糖など)や酸素を供給しやすくします。これによってブドウ糖や脂肪酸などを酸化してエネルギー(ATP)に変える能力を高めます。加えて、NOは褐色脂肪細胞を増やしてその活性を高めます。褐色脂肪組織ではエネルギー物質は酸化され熱に変換されます。一方、NOは脂肪生成を抑制します。NOはこれらのメカニズムにより強力に脂肪の蓄積を抑えたり脂肪を減少させたりすることで、肥満を抑制したり体脂肪を減らすと考えられます。(文献1、2の図を改変) (文献、資料) 1)"Defective mitochondrial biogenesis. A hallmark of the high cardiovascular risk in the metabolic syndrome?" Circ. Res., 100, 795 (2007). 2)"Nitric oxide and energy metabolism in mammals" BioFactors, 39, 383 (2013).. 2−3)ミトコンドリアとメタボリックシンドローム メタボリックシンドロームとは、肥満、特に内臓に脂肪が蓄積した肥満(内臓脂肪型肥満といいます)が原因となって血圧高値、血清脂質異常、高血糖などのさまざまな代謝異常が引き起こされた状態を言い、近年大変注目されるようになってきました。(メタボリックシンドロームについて詳しくは「アルギニンはメタボリックシンドロームを強力に予防・改善します!」や「厚生労働省ホームページ」を参照ください)。 年齢や肥満の進行とともにこれらの代謝異常の頻度や重症度は急激に増加し、その多くは高血圧、高脂血症、糖尿病に移行し、これらの疾患が原因となって動脈硬化が進行した結果、心血管病(心筋梗塞、脳梗塞、腎不全など)で死亡するということになります。 メタボリックシンドロームの主要な原因である内臓脂肪型肥満はどうして起こるのでしょうか。そのメカニズムとしていろいろ考えられますが、その中で細胞代謝の異常がカギとなることが提案されてきました。特に酸化的エネルギー代謝障害が内臓脂肪の増加に関係していることが考えられてきました。酸化的エネルギー代謝は主にミトコンドリアで行われるので、メタボリックシンドロームではミトコンドリアの機能が低下している可能性があります。すなわち、何らかの原因でミトコンドリアの機能が低下し、それがエネルギー代謝(ATPの生成や褐色脂肪組織での熱産生など)の異常(低下)を引き起こし、過剰になったエネルギー物質(脂肪、糖分など)が脂肪として蓄積され(特に内臓脂肪として)、肥満(特に内臓脂肪型肥満)、次いでメタボリックシンドロームを引き起こしたと考えられます。 糖尿病や高血糖の人では筋肉において酸化的リン酸化(ミトコンドリアでATPを合成する反応)に関係する遺伝子の発現が低下していることが示されています。そのような人ではまた、PGC−1α(ミトコンドリアの合成や機能を促進する因子)の発現が低下していることも示されています。これらのデータはPGC−1αの発現の低下がエネルギー代謝やミトコンドリアの合成や機能に関わる遺伝子の発現を低下させ、高血糖や糖尿病、あるいは肥満のような代謝異常に関係していることを示しているものと考えられました。また、メタボリックシンドロームと関係がある遺伝子の解析が脂肪細胞を用いて検討されました。その結果、メタボリックシンドロームでは患者の内臓脂肪においてミトコンドリアの合成と機能の低下がみられると考えられました(文献1)。 ではメタボリックシンドロームにおけるミトコンドリアの合成と機能の低下はどうして起こるのでしょうか。eNOS(血管内皮細胞で見出されたNOS。NOSはアルギニンからNOを合成する酵素)を遺伝子工学的に作れなくしたマウスにおいて、人間のメタボリックシンドロームと似たような代謝異常を起こすことが見出されました。このマウスは高血圧、インスリン抵抗性(高血糖の原因の一つ)、脂質異常を示しました。このマウスではまた体重が増加し、顕著な内臓脂肪の蓄積が見られました。このマウスの酸素消費は低下しました。このことは褐色脂肪細胞の熱産生が低下していることを示唆しました。eNOSが作られないマウスと正常なマウスを比較しますと、食物の摂食量は同じでしたが、体重はeNOSが無いマウスのほうが増加しました。このことはeNOS欠損マウスではエネルギー消費量が低下しているために、同じ食事量をとっても体重がより増加したものと考えられました。組織学的検査を行いますと、このマウスでは褐色脂肪組織はほとんど機能していませんでした。また、このマウスではミトコンドリアの合成と機能が低下していました。これらのことはeNOSがミトコンドリアの合成や機能に、そして、体重や内臓脂肪の増加抑制に、加えてメタボリックシンドロームの抑制に極めて重要であること、並びに、何らかの原因でeNOSの働きが低下(NOの生成が減少)することがメタボリックシンドロームを引き起こす原因となることが示唆されました(文献1)。 では次にNOを増やせばミトコンドリアの機能はどうなるでしょうか。NOは褐色脂肪細胞や白色脂肪細胞のミトコンドリアDNA(mtDNA)の量を増やしました(ミトコンドリアの合成が増加)。NOによるミトコンドリアの合成は褐色脂肪組織、心臓、骨格筋においてPGC−1αの活性化によって起こっていました。またミトコンドリアの合成はcGMP(NOによって生成が増加)に依存していました(文献1)。 なお、NOはeNOSを活性化することによって増やすことができますが、寒冷刺激や運動などによってeNOSは活性化されます。 以上のことから、寒冷刺激、運動などはeNOSを活性化してNOを増やし、次いでcGMPを増加させ、PGC−1αを活性化し、ミトコンドリアの合成と機能を高め、エネルギー代謝(ATP合成、熱産生)を増やし、肥満、特に内臓脂肪型肥満を抑制し、メタボリックシンドロームを抑制するものと考えられます。 図2.寒冷刺激、運動などはeNOSを活性化してNOを増やし、次いでcGMPの合成を促進し、PGC-1αを活性化し、ミトコンドリアの合成と機能を高めます。その結果、エネルギー代謝(ATP合成、熱産生)は増加し、肥満、特に内臓脂肪型肥満を抑制し、メタボリックシンドロームを抑制するものと考えられます。(文献1の図を改変) (文献、資料) 1)"Defective mitochondrial biogenesis. A hallmark of the high cardiovascular risk in the metabolic syndrome?" Circ. Res., 100, 795 (2007).. . |
3.アルギニンはミトコンドリアにどういう働きを示すか |
「2.ミトコンドリアと老化および老化病、肥満、メタボリックシンドロームとの関係」で述べましたように、NO(生理学的量)はミトコンドリアの合成と機能を高めて、老化や老化病(糖尿病、動脈硬化、心筋梗塞、脳梗塞、アルツハイマー病、骨粗鬆症、がんなど)、メタボリックシンドローム、肥満などを抑制します。NOはアルギニンを原料としてNOS(NO合成酵素)という酵素の働きで生成されますので、NOSの働きが低下するとNOが生成されなくなり種々の異常や病気を引き起こしやすくなります。例えば、eNOS(血管内皮細胞で見出されたNOS)を遺伝子工学的に作れなくしたマウスにおいては、ミトコンドリアの合成と機能の低下、褐色脂肪組織の機能の低下、体重増加(顕著な内臓脂肪の蓄積)、高血圧、インスリン抵抗性(高血糖の原因の一つ)、脂質異常などの代謝異常や病気を引き起こしました。これらの現象は老化やメタボリックシンドロームに一般的に見られるもので、これが慢性的に進行すると老化病と言われる糖尿病、動脈硬化、心筋梗塞、脳梗塞、アルツハイマー病、骨粗鬆症、がんなどに移行するものと考えられます。従って、NOS(eNOS)の働きを高めることによってNOの生成が増加し、ミトコンドリアの合成と機能が高まり、老化や老化病、メタボリックシンドローム、肥満などが抑制できるものと考えられます。 NOS(eNOS)を活性化する方法にはカロリー制限、寒冷刺激、運動、アルギニンなどがあります。その中でアルギニンはアミノ酸の一種でタンパク質の原料として体の中でも作られますが、不足量は食事(タンパク質)として摂取しています。ところが最近の研究では、加齢や生活習慣の乱れ(飲み過ぎ、ストレス、運動不足、喫煙、ダイエットなど)によって、また、老化病や生活習慣病で、体内でのアルギニンの量や働きが低下するとの報告があり、これが老化や老化病、生活習慣病の大きな原因の一つになっている可能性があります。つまりアルギニンの不足が老化や老化病や生活習慣病を引き起こしている可能性が指摘されています。この理由はアルギニンがタンパク質の原料としてだけではなく、体の中で様々な働きをしているためです。アルギニンの働きの一つにNOを生成する働きがあります。アルギニンはNOSの原料となりますが、同時にNOS(eNOS)を活性化することが知られています。アルギニンによって活性化されたNOS(eNOS)はNOの生成を増加させます。生成したNOはミトコンドリアの合成と機能を高めたり、その他種々の働きを示し、老化や老化病(糖尿病、動脈硬化、心筋梗塞、脳梗塞、アルツハイマー病、骨粗鬆症、がんなど)、メタボリックシンドローム、肥満などを抑制します(図4)(詳しくは次項以降に述べます)。 |
4.アルギニンによる寿命延長、および老化、老化病の予防・改善効果 |
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「老化とは、年をとることで体の一部、あるいは各部の働きが衰えることをいい」、最終的にはこれらの働きが停止して死にいたります。 中高年者によく見られる、脂肪太り(特に内臓肥満)、肌荒れ、しみ、しわ、白髪、抜け毛、体力低下、精力低下、記憶力低下などは老化による新陳代謝(体が新しいものに入れかわること)やエネルギー代謝(エネルギーをつくったり消費したりすること)の低下によるものです。また、免疫の低下や動脈硬化は、日本人の三大死因のがん、心疾患、脳卒中の原因となりますが、免疫の低下は免疫系の老化、動脈硬化は血管の老化によります。このように老化によって加齢(年を取ること)による体の見かけ上の変化だけでなく、体の中でもいろんな変化が起ってきます。これがある程度蓄積してきますと体の異常や病気という形で現れてきます。40〜50歳代以降の中高年の人がかかる病気のほとんどは老化が原因といわれています。そのため、老化を完全に予防したり改善できれば、私たちはほとんどの病気から開放され、がんや心疾患や脳卒中で死ぬこともなくなり、不老長寿も夢ではなくなるのです。 老化はすでに20歳代から始まります。成長が止まったらすぐに老化が待っています。生活習慣の乱れ(食べ過ぎ、飲み過ぎ、無理なダイエット、偏った栄養、喫煙、運動不足、ストレスなど)や紫外線、環境有害物質(食品添加物、環境発がん物質、環境ホルモンなど)などは老化を促進します。(「『アンチエイジングとは』こうすればいつまでも若く健康で長生きできる!」を参照ください)。 現在、多くの生物で共通して寿命を延長する唯一の方法はカロリー制限です。原生動物、ミジンコ、クモ、魚、マウス、ラットなど幅広い動物種で摂取カロリーを制限すると共通して寿命が1.4倍から1.9倍に延長することが明らかとなりました(文献1、2)。ラットの場合は60〜70%カロリー制限を行うと寿命は1.4倍延長しました。サルや人でもその可能性が示唆されています。カロリー制限を受けているマウスやラットでは通常食のマウスやラットに比べ小さく痩せており、脂肪蓄積量も少ないことが示されています。また、主要な臓器が小さくなります。さらに、より活発に動き、見た目を若く保ち、老化や老化病が抑制されますが、低温に対する抵抗力が弱くなります。また、カロリー制限を始める時期や行っている期間が寿命延長の効果に影響を与えます。 しかし、カロリー制限を人に応用するには多くの問題点があります。実験動物は通常ほとんど無菌状態で飼育されており、人の生活条件とは異なります。また、カロリー制限は成長に影響するため、成長期にそれを行うのは好ましくありません。実際には目立った老化が始まる30代後半から40代くらいで始めるのが望ましいと考えらえます。一方、動物実験で行われたようなかなり厳しいカロリー制限は現代人には到底実施し難いように思われ、また例え出来ても長続きしないと考えられます。これらのことから、一般の人が寿命を延長するほどのカロリー制限を半生でも続けられるとはとても思えません。ということで、カロリー制限と同様なメカニズムで寿命の延長ができ、手軽に、そして長期間の摂取にも問題のない安全性の高い物質の探索が進められ、いくつかの物質が候補に上げられてきました。 カロリー制限による寿命延長や老化抑制には様々な因子が関与していることが報告されていますが、その中で主要な因子としてサーチュインが知られています。サーチュインはサーチュイン遺伝子(長寿遺伝子とも呼ばれています)の活性化により合成されるタンパク質で、色々なメディアでも広く取り上げられるようになったため、一般の人々にも広く知られる存在になってきました(文献2)。そのため、サーチュインを活性化する物質が老化を抑制し長寿をもたらすのではないかと熱い期待が寄せられています。 サーチュインは様々な働きを示しますが、中でも重要なのはPGC−1αを活性化し、ミトコンドリアを活性化することです(「2−1)ミトコンドリアと老化および老化病」および図1参照)。サーチュイン(SIRT1)の働きを遺伝子導入法により高めたマウスでは、カロリー制限で見られるのと同様な現象が見られました。一方、遺伝子欠損法でSIRT1を欠損させたマウスではカロリー制限による運動機能改善や寿命延長が見られなくなりました。これらのことから、サーチュイン(SIRT1)は、カロリー制限による老化抑制や寿命延長などの効果をもたらす主要な因子と考えられました。 このように、サーチュインを活性化することが老化や寿命延長に寄与するだろうとの考えのもと、サーチュイン活性化物質が広く探索されました。その結果、多くの物質がサーチュインを活性化することが見出されましたが、動物だけではなく人でもその働きが明らかで、長期摂取に適した安全性の高い物質はまだほとんどないのが現状です。その中で、ブドウなどに含まれる天然物質であるレスベラトロールが動物実験では比較的検討されていますが、人でのデータはまだ限られており、またカロリー制限の効果を十分に再現できる結果はほとんど得られていません。(文献2、3、4、5、6) 例えば、カロリー制限では、通常食の時よりも寿命を延長しますが、レスベラトローは通常食の場合寿命を延長する効果は示されておりません(次の参考例。文献4)。また、動物実験では循環系、代謝系(メタボリックシンドローム、糖尿病など)、筋肉系、神経系(認知症など)、がんなどに比較的多くのデータが得られておりますが、人の対するデータは非常に乏しいのが現状です(文献2、3、4、5、6)。
4−1)アルギニンの寿命延長作用 上に述べましたように(「レスベラトロールの寿命や体重に対する効果の検討例」)、通常食(自由摂食)に比べカロリー制限(隔日摂食)によって平均寿命は延長する傾向にあることが示されていますが(約4%の延長)、カロリー制限と同じように長寿遺伝子(サーチュイン、SIRT1)を活性化する化合物であるレスベラトロールでは通常食(自由摂食)マウスの寿命は延長しませんでした。では同じように長寿遺伝子(サーチュイン、SIRT1)を活性化するアルギニンではどうでしょうか? 通常食で飼育しているマウスに1年間(マウスの寿命は約2年ですので1年間はほぼ半生に相当します)アルギニン(50mg/kg/日)を摂取させ、摂取終了後のマウスの生存数をアルギニン非摂取群と比較しました。その結果、アルギニン摂取群の生存数はアルギニン非摂取群に比べ14%増加しました(統計的に有意)。剖検の結果、アルギニン非摂取群に比べアルギニン摂取群では明らかに(統計的に有意に)悪性腫瘍(がん)の出現数が減少していました(「アルギニンは長期摂取によってがんの発生を少なくし生存数を増やします!」を参照ください)。 寿命延長に対するアルギニンとレスベラトールの効果を比較しますと、この二つの成分は同様に長寿遺伝子(サーチュイン、SIRT1)を活性化しますが、寿命(生存数)に対する効果は異なっていました。通常食で飼育しているマウスにおいて、アルギニンは生存数を増加しますが、レスベラトロールは生存数に影響しませんでした。つまり、普通に食事をしている場合レスベラトールは寿命に影響しませんが、アルギニンは寿命を延長しました。この効果の差はどこにあるのでしょうか。一つの考え方は、レスベラトールよりアルギニンの方が、カロリー制限の効果をより再現しているのではないかということです。つまり、カロリー制限は、サーチュインを活性化する以外に、様々な因子が寿命延長に関与していることが報告されています2)。アルギニンは、サーチュイン活性化以外にも寿命延長に関し、様々な因子に働いている可能性があります。これらの因子がカロリー制限とアルギニンで同じであるかあるいは違っているかは非常に興味があるところです。 実験に用いたマウスの剖検結果から、アルギニン摂取群では非摂取群に比べ悪性腫瘍の発生頻度が少ないことが示されていますが、これはアルギニンの免疫増強作用によるものと説明されています。また、アルギニンには免疫増強作用以外にも、一酸化窒素(NO)を介した作用、抗糖化作用など寿命や老化に関係する様々な働きを示します(詳しくは「アルギニンで若返る!」を参照ください)。つまり、アルギニンでは、長寿遺伝子(サーチュイン、SIRT1)の活性化作用に加え、これらの作用が総合的に働き、通常食の場合にも寿命を延長したものと考えられました。このように、寿命を延長するには、長寿遺伝子(サーチュイン、SIRT1)を活性化するだけではなく、さらに強力な付加的な作用も必要ではないかと考えられます。 アルギニンはレスベラトールよりも強力な寿命延長作用を示しました。寿命を延長するには長寿遺伝子(サーチュイン、SIRT1)を活性化するのに加え強力な付加的な作用が必要ではないかと考えられました(表)。 |
アルギニンは、動物において寿命を延ばし、動物や人において老化や老化病(肥満、メタボリックシンドローム、糖尿病、糖尿病合併症、動脈硬化、心血管病、ED、高血圧症、心不全、認知症、感染症、骨粗鬆症、肝障害、痔、がんなど)を予防、改善します(表)が、それには、アルギニンから生成する一酸化窒素(NO)そのものによる作用、抗糖化作用、抗酸化作用、あるいはNOによる長寿遺伝子(サーチュイン)の活性化作用(ミトコンドリア合成と活性化作用、抗酸化酵素誘導作用など)およびテロメラーゼ活性化作用(テロメア伸長作用)などが関係しているものと考えられます(図)。また、アルギニン(NO)の作用は抗酸化剤によって増強されます。 一方、長寿遺伝子(サーチュイン、SIRT1)を活性化することが知られているレスベラトロールは、動物実験では循環系、代謝系(メタボリックシンドローム、糖尿病など)、筋肉系、神経系(認知症など)、がんなどに比較的多くのデータが得られておりますが、人の対するデータは非常に乏しく、人において本当に効果があるかどうかは不明なのが現状です(文献2、3、4、5、6)。 表.アルギニン(NO)の寿命延長、抗老化、老化病抑制作用 |
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5.お知らせ(ホームページ責任者、参考図書) |
【ホームページ責任者】 古賀 弘 Eメール:kogahrs555@nifty.com 健康コンサルタント 薬学博士(東京大学) 日本抗加齢医学会正会員 (有)ジェイエヌピー研究所 (ホームページ:http://jnp-lab.com/) ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 【参考図書】 「アルギニン」についてもっとお知りになりたい方には次の本(拙著)をお薦めします。本書は本邦最初で唯一の一般向けアルギニン参考書です。 本書のご購入ご希望の方はインターネット書店(Amazon.co.jpまたは紀伊国屋書店)または全国の書店でお買い求め下さい。 『超アミノ酸健康革命−21世紀のサプリメント「アルギニン」のすべて』(古賀 弘著、今日の話題社、1,575円(税込)) |
リンク集 |
おもいっきりテレビ |
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ためしてガッテン |
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