●NAITOらは、アルギニンが単純ヘルペスウィルスの増殖を直接抑制することを示しましたT Naito, H Irie, K Tsujimoto, K Ikeda, T Arakawa, and AH Koyama. Antiviral effect of arginine against herpes simplex virus type 1. Int. J. Mol. Med. (2009), 23, 495-499)

  単純ヘルペスウィルス(herpes simplex virus type 1 (HSV-1))(注1)を細胞(HEp-2細胞)に感染させ、in vitro(試験管内)でウィルスの増殖に対するアルギニンの影響を調べました(注2)。アルギニンは8mM付近からウィルスの増殖を抑制し、その増殖は25、35、50mM付近でそれぞれ1/10、1/100、1/1000に低下しました。
  同様に、アルギニンは他のウィルス(インフルエンザウィルス、ポリオウィルスなど)の増殖も抑制しました。


注1:単純ヘルペスウィルスには1型(HSV-1)と2型(HSV-2)の2種類があります。HSV-1は主として口唇ヘルペス、ヘルペス口内炎、角膜炎の原因となります。HSV-2は主として性的接触などによって感染し陰部ヘルペスの原因となります。
注2:ウィルスは単独では増殖できないので、試験管内でウィルスの増殖を測定するためにウィルスを特定の細胞に感染させます。


【考察】
  アルギニンに関するいくつかの安全性情報サイトでは、『ヘルペスウイルスは増殖の際にアルギニンを必要とすることが示唆されていることから、理論的には、ヘルペスの感染症を悪化させる可能性がある』とされています(例えば、国立健康・栄養研究所の「健康食品」の安全性・有効性情報の『アルギニン』の項を参照ください)。

  Beckerらの文献(Y. BECKER, U. OLSHEVSKY AND JULIA LEVITT. The Role of Arginine in the Replication of Herpes Simplex Virus. J. gen. Virol. (1967), 1, 471-478)によりますと、アルギニンは、@単純ヘルペスウィルスの増殖には必須の成分であること、A培養液からアルギニンを除くとウィルスの増殖は抑制されましたが、それにアルギニンを加えるとウィルスの増殖は促進されること、B培養液の中のアルギニンの濃度が高くなるとウィルスの増殖は促進されましたが、ほぼ0.105mMでウィルスの増殖は最大になり、それ以上アルギニンの濃度を高くしても増殖は促進されなかったこと、などが示されています。
  また、MIKAMIらは(T. MIKAMI, M. ONUMA AND T. T. A. HAYASHI. Requirement of Arginine for the Replication of Marek's Disease Herpes Virus. J. gen. Virol. (1974), 22, 115-128)、多くのアミノ酸がヘルペスウィルスの増殖に必要であり、その不足によってウィルスの増殖が抑制されたが、特にアルギニン、イソロイシン、チロシンの不足によってその増殖が強く抑制されたことを示しました。アルギニンについては、アルギニンが不足しているとき、ヘルペスウィルスの増殖は強く抑制されましたが、アルギニンを加えていくと増殖は促進され、アルギニンが0.06mMでほぼピークになりました。一方、6mM以上のアルギニンの濃度ではヘルペスウィルスの増殖は抑制されるように見えました。

  これらの結果と、上記のNaitoらの結果を併せて考えると、ヘルペスウィルスにとって、アルギニンや他のアミノ酸は、ウィルスが増殖するのに必要な栄養成分の一つと考えられます。そして、それが不足すると増殖は抑制され、これにアルギニン(や他のアミノ酸も)を補充すると増殖が促進されます。これは他の生物一般と同じです。他の生物でもアルギニンなどアミノ酸が不足すると成長が抑制されるどころか生命さえも脅かされることになります(生命の根源のタンパク質が作られなくなるため)。また、アルギニンなどのアミノ酸を補充すると成長が促進され、また生命が正常に維持されることになります。
  アルギニンについては、ヘルペスウィルスの増殖に最も適した濃度は0.06〜0.105mM付近です。そして、それより高濃度(8mM付近から)では逆に増殖は抑制されるようになり、25、35、50mM付近でそれぞれウィルスの増殖は1/10、1/100、1/1000まで低下しました。

  では、人ではアルギニンはヘルペスウィルス感染にどう影響するでしょうか。ヘルペスウィルスの増殖にはアルギニンは必須ですが、上に示したようにその増殖はアルギニンの濃度が0.06〜0.105mM付近でピークになります。一方、人の体の中(血液中や細胞中)でアルギニンの濃度は通常0.1〜0.8mMとされ(O. Eremin, L-Arginine: Biological aspects and clinical application, Chapman &Hall, New York, 1997)、この濃度はすでにヘルペスウィルスの増殖にとって最適の濃度となっています。では、アルギニンの摂取などによってアルギニンの体内濃度がより高くなったときはどうなるでしょうか。その時は、上記のデータから考えますと、ヘルペスウィルスの増殖は影響されないか、逆に抑制される(10倍以上高くなったとき)と考えられます。

  一方、アルギニンは免疫力を高めてウィルス(風邪ウィルス、インフルエンザウィルスなど)の感染を抑制することが知られています(Minerva. Pediatr, 1997; 49: 537-542)ので、ヘルペスウィルスについてもアルギニンは免疫系を介してその感染・増殖を抑制する可能性が高いと考えられます。


  以上のことから、アルギニンを摂取することによって、『(アルギニンに関するいくつかの安全性情報サイトでいわれているような)アルギニンがヘルペスの感染症を悪化させる可能性』はほとんど無く、逆に免疫力を高めて、またアルギニンの直接作用によって、ヘルペスウィルスの感染・増殖を抑制する可能性が高いと考えられます。








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上記以外のアルギニンの働きについてお知りになりたい方は
アルギニンで若返る!』をご覧ください。